はじめに
「保険診療外でもいいので、やれる検査は最初から全部案内してください」と、凍結胚が貴重な胚の患者様などに言われることがあります。その際、子宮内膜胚受容能検査を提示するかどうか考えることがあります。
今回、ルーチンで行うERA検査は妥当ではないことを示した質の高いRCTがでてきましたので、ご紹介いたします。
ポイント
正倍数性胚の凍結融解胚移植を行うのに、ルーチンで子宮内膜胚受容能検査(ERA)を行っても、通常治療と成績差がないことがわかりました。反復着床不全などの特殊な症例を除き、ERA検査のルーチン使用は支持されません。
引用文献
Nicole Doyle, et al. JAMA. 2022 Dec 6;328(21):2117-2125. doi: 10.1001/jama.2022.20438.
論文内容
米国の不妊治療施設30施設で二重盲検無作為化臨床試験です。2018年5月から2020年9月までとし、フォローアップは2021年8月に終了しました。
参加者は、体外受精、PGT検査、ERA検査、凍結融解胚移植を実施しました。除外基準は、反復流産、反復着床不全、TESE精子、ドナー卵子、子宮奇形患者としました。
介入群(n = 381)は、ERA調整下個別化胚移植を実施し、コントロール群(n = 386)は、ERA結果に関わらず標準的な胚移植時間に移植しました。
主要評価項目は出生率とし、副次評価項目として生化学妊娠と臨床妊娠としました。
結果
ランダム化された767名(平均年齢35歳)のうち、755名(98%)が試験を完了しました。
出生率は、介入群では58.5%(381例中223例)、コントロール群では61.9%(386例中239例)(差, -3.4% [95% CI, -10.3%~3.5%]; RR, 0.95 [95% CI, 0.79~1.13]; P = 0.38)、生化学妊娠率(77.2% vs. 79.5%;差, -2.3% [95% CI, -8.2%~3.5%]; RR, 0.97 [95% CI, 0.83~1.14]; P = .48)、臨床妊娠率(68.8% vs. 72.8%; 差, -4.0% [95% CI, -10.4%~2.4%]; RR, 0.94 [95% CI, 0.80~1.12]; P = .25)であり、介入群とコントロール群には差がありませんでした。
内膜調整方法として、ホルモン調整周期が用いられています。外因性エストラジオール投与し、子宮内膜厚が7mm以上となったところからプロゲステロン50mg/日 連日筋注、もしくはプロゲステロン腟剤400mg/day+プロゲステロン50mg/日 週2回筋注で123±3時間後にERA検査を実施しています。
私見
このRCTは現在まで行われてきたERA調整下個別化胚移植に大きな意味合いがないことを示す可能性を秘めています。症例が反復着床不全や反復流産などの女性を除いているとしても、ERA検査自身の信頼を覆すくらいインパクトが強い報告です。
様々な可能性が考えられますが、ERA検査自身が、思いの外、着床の窓を的確にとらえていないか、医療機関が適切なERA検査を行えていないか、子宮内膜胚受容能は思いの外、多様性が多く再現性がとれないか、どれかになってくるかでしょう。
反面、ERA検査が普及することにより恩恵を得た患者様が数多くいるのも間違いのない事実です。ERA検査を、どのように解釈し有効活用していくか、検査会社の努力とともに利用する医療者サイドの理解も深めていく必要があるのだと思います。
| 12 時間の補正必要症例 | ERA調整下 個別化胚移植 | ERA非調整 標準胚移植 | 両群治療差 | RR(95% CI) | P value |
|---|---|---|---|---|---|
| 全患者 | 211 | 208 | |||
| 生化学妊娠状態 | 161(76.3) | 167(80.3) | -4.0(-11.9 to 3.9) | 0.95 (0.77-1.18) | . 38 |
| 生化学妊娠 | 20(12.4) | 11(6.6) | -5.8(-0.7 to 12.1) | 1.89 (0.90-3.94) | . 11 |
| 臨床妊娠率 | 138(65.4) | 155(74.5) | -9.1(-17.8 to -0.4) | 0.88 (0.70-1.10) | . 06 |
| 流産 | 22(15.9) | 25(16.1) | -0.2(-5.4 to 14.4) | 0.99 (0.56-1.75) | >. 99 |
| 生化学妊娠+流産 | 42(26.1) | 36(21.6) | -4.5(-4.7 to 13.7) | 1.21 (0.78-1.89) | . 40 |
| 生児獲得 | 115(54.5) | 130(62.5) | -8.0(-17.3 to 1.5) | 0.87 (0.68-1.13) | . 12 |
| 24 時間の補正必要症例 | ERA調整下 個別化胚移植 | ERA非調整 標準胚移植 | 両群治療差 | RR(95% CI) | P value |
|---|---|---|---|---|---|
| 全患者 | 123 | 120 | |||
| 生化学妊娠状態 | 92(74.8) | 99(82.5) | -7.7(-18.0 to 2.6) | 0.91 (0.68-1.20) | . 19 |
| 生化学妊娠 | 14(15.2) | 4(4.0) | 11.2(2.9 to 19.5) | 3.77 (1.24-11.44) | . 02 |
| 臨床妊娠率 | 76(61.8) | 94(78.3) | -16.5(-27.8 to -5.2) | 0.79 (0.58-1.07) | . 01 |
| 流産 | 9(11.8) | 18(19.1) | -7.3(-18.1 to 3.5) | 0.62 (0.28-1.38) | . 28 |
| 生化学妊娠+流産 | 23(25.0) | 22(22.2) | -2.8(-9.4 to 15.0) | 1.13 (0.6-2.02) | . 78 |
| 生児獲得 | 67(54.5) | 76(63.3) | -8.8(-21.1 to 3.5) | 0.86 (0.63-1.19) | . 20 |
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。