
はじめに
子宮体癌初期や子宮内膜異型増殖症の標準治療は子宮全摘術ですが、患者の5%は40歳未満の女性であることから妊孕性温存療法が選択されることがあります。プロゲスチン療法後に海外ではレボノルゲストレル放出子宮内器具(LNG-IUS)を用いた妊孕性温存治療が実施されています。LNG-IUS使用下での調節卵巣刺激をおこなった際の腫瘍再発などについて検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
LNG-IUS治療中の早期子宮体癌や子宮内膜異型増殖症患者において、調節卵巣刺激による妊孕性温存は腫瘍学的に安全である可能性があります。
引用文献
Stavroula L. Kastora, et al. F S Rep. 2025;6:335-40. doi: 10.1016/j.xfre.2025.07.008.
論文内容
LNG-IUS治療中の子宮体癌初期や子宮内膜異型増殖症患者における調節卵巣刺激の腫瘍学的安全性と生殖転帰に関する有効性を検討することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。主要評価項目は調節卵巣刺激の疾患進行に対する腫瘍学的安全性の評価であり、副次評価項目はLNG-IUS治療患者における妊孕性転帰としました。
結果
34名の患者(年齢中央値34歳、四分位範囲30-38歳、BMI中央値29.6 kg/m²、四分位範囲26-36.9 kg/m²)を対象としました。患者の76.5%が子宮体癌I期と診断され、73.5%が妊孕性カウンセリングを求めました。AMH中央値は22.40 pmol/L(四分位範囲8.7-55.9 pmol/L)でした。11名が調節卵巣刺激を受け、ピークエストラジオール値の中央値は1,406 pmol/L(四分位範囲694.0-9,577 pmol/L)、回収卵子数の中央値は5個(四分位範囲2-17個)、凍結受精胚数の中央値は4個(四分位範囲1-6個)でした。LNG-IUS留置後最初の50ヶ月間において、調節卵巣刺激を受けた患者と受けなかった患者との間で、再発(HR、1.16[95%CI、0.36-3.76])または疾患のグレードアップ(HR、0.71[95%CI、0.13-3.97])について有意差は認められませんでした。34例中11例(32.35%)がフォローアップ期間中に妊娠を試み、そのうち54%が出生に至りました(自然妊娠3例、ART妊娠1例、自己受精胚を用いた代理出産2例)。
私見
本報告で示された再発パターン(早期群10-20ヶ月、後期群48-72ヶ月)は、既存の報告と一致しています。一般的に、MPA療法による完全寛解後の再発までの期間(RFS:recurrence-free survival)の中央値は12-24ヶ月程度と報告されており、Yamagami et al. Gynecol Oncol, 2018では17ヶ月、Park et al. J Gynecol Oncol, 2022では22ヶ月と報告されています。全再発例の約70-80%は2年以内に起こるとされており、本研究の早期再発群がBMI >30 に集中していました。
当院でも一定数、早期子宮体癌や子宮内膜異型増殖症の不妊治療を行っていますので、がん主施設と連携をとった管理をおこなっていきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。