はじめに
妊娠悪阻(つわり)の診断・定義は様々ですが、一定頻度で起こります。
では、一人目妊娠のときに妊娠悪阻が発症した場合の二人目妊娠時の再発率はどうなのでしょうか。
妊娠悪阻の再発を検討した研究は複数あり、Trogstadらは2回目の妊娠で15%、Fiaschiらは2回目の妊娠で26%程度発症するとされています。少し再発リスクが高い報告もあります。Fejzoらの57名の女性に関して自己申告でアンケート調査をとった再発報告は81%としていますが、少し軽度の症状も含まれていて、重症型はこの報告でも39%としているので、重症型と考えると他の報告と大差はなさそうです。
リスク因子の抽出は低体重の女性で起こりやすいとされていますが、様々な意見があります。その他は多胎妊娠、胎児が女性の場合、民族性、甲状腺障害をもっている場合などが報告されています。最近の妊娠悪阻の再発率を評価しリスク因子を検討した論文をご紹介いたします。
ポイント
妊娠悪阻の再発率は約24%で、胎児が女性の場合や出産回数が多い場合にリスクが高まります。一方、BMIが高い女性や喫煙者では再発率が低下することが報告されています。
引用文献
Nurmi M, et al. Am J Obstet Gynecol. 2018. DOI: 10.1016/j.ajog.2018.08.018
論文内容
妊娠悪阻の再発率および影響を及ぼす因子を検討しました。
2004年から2011年までにフィンランドで出産に至った全妊娠のうち、妊娠後に妊娠悪阻と診断されて出産に至った妊娠が少なくとも1回あった女性のデータ(1,836名の女性、4,103回の妊娠)を対象としました。
リスク因子として女性年齢、経妊数、胎児の性別、BMI、喫煙、社会経済的地位、居住地、出産時期、体外受精の有無、性別、多胎の有無を検討しました。
結果
初回に妊娠悪阻となった女性1,836名のうち、続く妊娠で妊娠悪阻となった症例が544例、ならなかった症例が1,723例でした。妊娠悪阻の全体的な再発率は24%でした。妊娠経験が1回以上の女性の妊娠悪阻の発症率は11%でした。出産が1回の女性より出産が2回の女性の方が再発リスクは高くなりました(調整オッズ比、1.33、P = 0.046)。BMIが高い女性(調整オッズ比、0.58、P = 0.036)や、妊娠初期に喫煙した女性(調整オッズ比、0.27、P < .001)は、妊娠悪阻の再発率が低い結果となりました。
胎児の性別が女性であることは、妊娠悪阻の再発率が高くなりました(調整オッズ比、1.29、P = 0.012)。
私見
今回の報告では妊娠悪阻の再発率は24%で、過去の報告と似た結果となっています。
再発に関しては関連候補遺伝子(GDF15やIGFBP7など)が同定されていますが、まだまだ臨床現場での応用には至っていません。
今回抽出された再発率が低くなっているリスク因子は、残念なことに全く予防の参考にはならないですね。お仕事との兼ね合い、上のお子さんの行事や進学などをふまえた家族計画を立てる上での参考になさってみてください。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。