体外受精

2021.08.17

着床を低分子ヘパリン子宮内注入はサポートしない(Clin Exp Reprod Med. 2016)

はじめに

ヘパリンは脱落膜細胞や内膜間質細胞に働きかけheparin binding epidermal growth factor(HB-EGF)発現を調整したり、ヘパリン自身がヘパリン硫酸プロテオグリカンやHB-EGFと同様に、胚盤胞の接着、浸潤および増殖に関与していることも考えられています。 (Kumar P, et al. J Human Reprod Sci. 2013.; Wirstlein PK, et al. Folia Histochem Cytobiol. 2013.)
ヘパリンの影響下で子宮内膜のプロラクチンやIGFが産生され、IGF-BPの発現を低下させます。これらが内膜受容能の調整などに影響していることがわかっているため、ヘパリンを直接投与することにより胚移植成績の改善が見込まれることも考えられます。しかし外因性のヘパリンが内因性のヘパリン硫酸プロテオグリカン同様に作用しないことも考えられていて現在のところ結論が出ていません。では、胚移植時に直接低分子ヘパリンを子宮内投与した場合、着床率を改善させるかどうかを報告した論文をご紹介いたします。

ポイント

胚移植直前の低分子ヘパリン子宮内注入は、培養液注入と比較して臨床妊娠率や着床率を改善しませんでした。むしろ妊娠率は低い傾向にあり、現時点で推奨される方法ではないと考えられます。

引用文献

Ahmed Mohamed Kamel, et al. Clin Exp Reprod Med. 2016. DOI: 10.5653/cerm.2016.43.4.247

論文内容

体外受精女性160名を対象に、ランダマイズド試験を行いました。採卵後の胚移植直前のmock ETの際に低分子ヘパリン(80名割り付け59名実施)もしくは培養液(80名割り付け55名実施)を子宮内注入しました。評価項目として副作用、臨床妊娠率、着床率を検討しました。

結果

両群間の不妊原因、女性年齢、移植日、移植受精胚数、胚質などについては同等の条件でした。低分子ヘパリン注入群の妊娠率は33.9%で、重大な副作用は報告されませんでした。培養液注入群と比較して臨床妊娠率および着床率には、統計的に有意な差は認められませんでした(それぞれ、p=0.182、p=0.096)。低分子ヘパリン注入群の妊娠のオッズ比は、培養液注入群と比較して0.572(95%CI、0.27-1.22)、リスク比は0.717(95%CI、0.46-1.13、p=0.146)でした。

私見

低分子ヘパリン注入群は体外受精の成績を改善しませんでした。
反復着床不全患者の割合は低分子ヘパリン注入群11.9%、培養液注入群9.1%と高くありませんが、28歳平均の女性に平均2.4個のDay4新鮮胚移植をしているにも関わらず妊娠率は高くない結果に終わっています。
低分子ヘパリン注入群の妊娠率は33.9%、培養液注入群の妊娠率は47.2%で終わったことを見てみると、少なくともヘパリンを子宮内注入したりする気にはなりません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# アスピリン、ヘパリン

# 反復着床不全(RIF)

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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