一般不妊

2021.06.11

人工授精(男性因子)を断念するタイミングを考える その②

はじめに

「調整前-総運動精子数」(通常の精液検査)で人工授精における妊娠率を予測することができるかについては、意見が分かれるところです。
私たち自身の臨床成績から、「調整前-総運動精子数」が200万を切る症例では、人工授精を当日でも中止することを提案しています。その根拠として、亀田IVFクリニック幕張では2016年開設以降、「調整前-総運動精子数」が200万を切る90名を超える患者様で妊娠例がないからです。

しかし、「調整前-総運動精子数」は人工授精成績の予知因子にならないという論調も多く、正直なところEBMの観点から結論は出ていません。調整前-総運動精子数と人工授精との関連を示す論文は本当に少なく、解釈するのがとても難しいと感じています。
「調整前-総運動精子数」が人工授精の妊娠率に関係性を示さないという2本の論文を紹介します。

ポイント

「調整前-総運動精子数」が人工授精の妊娠率予測に有用かは結論が出ていません。当院では200万未満で妊娠例がないため、この基準で中止を提案しています。文献では900万以下で妊娠例なしとの報告もあるが、人種や環境の違いが影響する可能性があります。

引用文献

①Shuai Liu, et al. Int J Gynaecol Obstet. 2021. DOI: 10.1002/ijgo.13447
②Louise Lemmens, et al. Fertil Steril. 2016. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2016.02.012

論文内容

①Shuai Liu, et al. Int J Gynaecol Obstet. 2021. DOI: 10.1002/ijgo.13447 

IUIの臨床的妊娠を「調整前-総運動精子数」、「調整後-総運動精子数」で評価した論文です。2010年4月から2018年10月まで2064回のIUI周期を受けた女性の臨床的妊娠結果を後方視的に検討しています。 
「調整前-総運動精子数」が900万以下、「調整後-総運動精子数」が200万以下の場合、妊娠例は認められませんでした。 
「調整前-総運動精子数」が300〜1000万と1000万以上、「調整後-総運動精子数」が1,000〜1億と1億以上の場合の妊娠について分析(女性年齢、不妊期間、不妊症のタイプ、IUI治療の卵巣刺激のタイプ、治療サイクル数などで多変量解析)を行っています。しかし、「調整前-総運動精子数」、「調整後-総運動精子数」では有意差が出ず、卵巣刺激を行わないでIUIを実施した場合と人工授精回数が多い場合に妊娠成績が下がる結果になりました。 

②Louise Lemmens, et al. Fertil Steril. 2016. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2016.02.012 

人工授精の臨床的妊娠を、精液検査の様々なパラメーターで評価した論文です。初めてのIUIを行う1,166名の患者様(4251回のIUI)の臨床的妊娠結果を後方視的に検討しています。 
評価項目は精子の「正常形態率」、「調整前-総運動精子数」、「調整後-総運動精子数」、「女性年齢」、「男性年齢」、「周期数」としています。 
初回人工授精では「女性年齢」以外は妊娠率を予測する因子がありませんでした。 
二回目以降の人工授精では「正常形態率」(OR 1.39)、「調整後-総運動精子数」(500万〜1,000万、OR 1.73)が妊娠率に正の相関、「調整後-総運動精子数」(100万未満、OR 0.42)、「女性年齢」、「男性年齢」が負の相関を示しました。「調整前-総運動精子数」は関係性を示すことができませんでした。 
多変量モデルでは、AUC 0.73程度であり、精液検査の様々なパラメーターは人工授精の妊娠予測精度は高くないことを示しました。 

私見

①の論文は症例数が少ないせいか、「調整前-総運動精子数」が900万以下、「調整後-総運動精子数」が200万以下では妊娠例が出ていません。人種の違いや人工授精を提供できる環境の違いが日本とは異なるのかもしれません。
②の論文は初回と二回目以降を分けており、初回は予知因子がないため、とりあえずやってみてもいいのでは、と背中を押される論文ではあります。しかし、「調整前-総運動精子数」が人工授精に関係しないという部分は少し誤解しないように症例評価を読み込む必要があります。
この論文では対象を中程度の精液所見不良症例としており、「調整前-総運動精子数」を4つのグループ(2000万未満、2000〜5000万、5000〜1億、1億以上)に分類しており、総運動精子がとても少ない症例を対象としていません。
このことからも、この論文は総運動精子数がそこそこあれば人工授精の成績に影響を与えないし、多いからといって妊娠率が高いわけではない、という理解にとどめるしかないと思っています。
「調整前-総運動精子数」が妊娠率に寄与するという論文があるかどうかですが、下記の論文が引用されることが多いです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 人工授精

# 精液検査

# 精液所見

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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