
はじめに
帝王切開既往は妊孕性低下に関わるのではないか?という議論が散見されるようになりました。帝王切開子宮瘢痕症の概念も登場し、患者様にとって情報提供しやすくなってきています。治療周期ごとの成績は低下するとしても、最終的な累積出生率低下に帝王切開既往がつながるのか?という問いを評価した研究をご紹介いたします。
ポイント
帝王切開既往の有無にかかわらず、生殖補助医療における累積出生率に有意差は認められませんでした。
引用文献
Liu L, et al. J Assist Reprod Genet. 2025. doi: 10.1007/s10815-025-03729-6.
論文内容
女性の帝王切開分娩既往が生殖補助医療における累積出生率に影響をあたえるか評価することを目的としたレトロスペクティブ研究です。2013年から2021年に生殖補助医療を受けた経産婦4724名を対象とし、帝王切開既往の有無により帝王切開群(CS群、N=1415)と経腟分娩群(VD群、N=3309)に分類しました。帝王切開瘢痕欠損(PCSD)は経腟超音波検査で帝王切開瘢痕部位の無エコー領域として定義し、CS群をPCSD群(N=302)と非PCSD群(N=1113)に細分化しました。なお、測定値での基準は設けていません。また子宮腔内液体貯留があった症例は移植をキャンセルにしています。患者年齢は両群とも中央値35.0歳、新鮮胚移植が約85%を占めていました。傾向スコア(PS)マッチングと一般化線形モデル(GLM)を用いて交絡因子を調整しました。
結果
CS群では1回の胚移植あたりの移植胚数が有意に少なく(VD群:1.53個 vs. CS群:1.23個、P<0.001)、単一胚移植が多く選択されていました。1回の胚移植あたりの出生率はCS群で有意に低くなりました(VD群:41.1% vs. CS群:37.2%、P=0.002)。しかし、累積出生率は、PSマッチング前(60.4% vs. 58.4%, P=0.219)および後(57.8% vs. 58.4%, P=0.761)ともに両群で類似していました。累積妊娠率についても両群間で有意差は認められませんでした(マッチング後:65.9% vs. 66.3%, P=0.843)。年齢、卵巣反応性、BMIという重要な予後因子で層別化しても、帝王切開既往の影響が認められませんでした。共変量と交絡因子を調整したCox回帰分析でも、PSマッチング前後ともにVD群とCS群の累積出生率に有意差はありませんでした(マッチング前:HR=0.94; 95%CI, 0.87-1.02、マッチング後:HR=0.99; 95%CI, 0.90-1.09)。
私見
これまでの研究では、帝王切開既往が単一胚移植周期の妊娠率や出生率を低下させるとするメタアナリシスが報告されていました(Zhao J, et al. Reprod Biomed Online, 2021; Cao D, et al. Exp Ther Med, 2024)。
一回一回の成績が下がる可能性が高いが、子宮腔内液体貯留がなければ数多くやれば、結果にそのうち繋がるということは、周期周期の子宮の状態(収縮?エコーではわからない液体貯留など)があるのでしょうか。興味深いところです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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