体外受精

2021.04.16

体外受精によるbirth defects(Hum Reprod. 2021:その1)

はじめに

先行研究では、不妊症や体外受精が先天性欠損症(birth defects)のリスク増加と関連することが指摘されています。しかし、サンプルサイズが小さく統計的検出力が不十分であること、birth defectsの定義が様々であること、体外受精治療に関する情報が不統一であること、体外受精治療法が年々変化しているため時代によるバイアスがあることなどから、データを示すには限界がありました。今回は米国のビッグデータを用いたコホート研究をご紹介します。

ポイント

自然妊娠の単胎児と比較して、顕微授精を行わずに自家卵子と新鮮胚で妊娠した体外受精単胎児の主要な非染色体異常のリスクは18%増加し、男性因子診断を伴わない顕微授精では30%、伴う顕微授精では42%増加しました。birth defectsに関する情報は、体外受精のリスクとベネフィットについて患者とカウンセリングする際に含まれるべきと考えられます。

引用文献

Barbara Luke, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deaa272

論文内容

本研究は、2004年1月1日から2015年12月31日までにSociety for Assisted Reproductive Technology Clinic Outcome Reporting System(SART CORS)に報告され生児が誕生した体外受精周期を用いたコホート研究です。大規模で民族的にも多様であり、同じ症例定義を利用して収集されたデータを利用したbirth defects登録も行われており、毎年多くの体外受精による出産が登録されています。
自然妊娠した体外受精患者の兄弟は母親の情報から特定しました。体外受精ではない子どもは、出生証明書に不妊治療の記載があり、女性がSART CORSにリンクしていない場合、排卵誘発もしくは人工授精で妊娠した女性から生まれたと分類し、それ以外は自然妊娠と分類しました。
対象者は135,051名の体外受精の子ども(78,362名の単胎児と56,689名の双胎児)、23,647名の自然妊娠の体外受精の兄弟(22,301名の単胎児と1,346名の双胎児)、卵巣刺激もしくは人工授精の治療を受けた女性から生まれた9,396名の子ども(6,597名の単胎児と2,799名の双胎児)と1,067,922名の自然妊娠の子ども(1,037,757名の単胎児と30,165名の双胎児)でした。調査対象となったすべての子どもは、生後1年以内に診断されたbirth defectsを特定された場合、染色体異常(染色体異常があり、他に重大なbirth defectsがない場合)、非染色体異常(重大なbirth defectsがあり、染色体異常がない場合)、あるいは全birth defectsに分類しました。
ロジスティック回帰モデルを用いて、自然妊娠児を基準として、体外受精(自身の卵子を用いて新鮮胚移植を行った症例を使用)による妊娠、男性因子不妊の有無に関わらず顕微授精を行った場合と行わなかった場合のbirth defectsのリスクを、調整済みオッズ比(aOR)と95%CIで評価しました。
体外受精群では、自身の卵子を用いて新鮮胚移植を行った症例からの出産を基準として、卵子の種類(自己卵子かドナー卵子か)と受精胚の状態(新鮮胚か凍結融解胚か)の組み合わせで層別して分析しました。新鮮胚に限定した分析では、卵子の供給源(自己卵子かドナー卵子か)と顕微授精の有無で層別しました。品胎以上は除外しました。

結果

21,998名の単胎児(1.9%)と3,037名の双胎児(3.3%)に大きなbirth defectsがありました。自然妊娠児と比較して、体外受精単胎児(自己卵子、顕微授精を行わない新鮮胚移植妊娠)は、非染色体の主要なbirth defects(aOR 1.18、95% CI 1.05、1.32)、心血管障害(aOR 1.20、95% CI 1.03、1.40)、および全birth defects(aOR 1.18、95% CI 1.09、1.27)のリスクが高くなりました。
自然妊娠の場合と比較して、顕微授精による体外受精単胎児では、主要な非染色体birth defects(男性因子診断なしの場合、aOR 1.30、95%CI 1.16、1.45、男性因子診断ありの場合、aOR 1.42、95%CI 1.28、1.57)、blastogenesis defects(男性因子なしの場合、aOR 1.49、95%CI 1.08、2.05、男性因子診断ありの場合、aOR 1.56、95%CI 1.17、2.08)、心血管障害(男性因子なしの場合、aOR 1.28、95%CI 1.10、1.48、男性因子ありの場合、aOR 1.45、95%CI 1.27、1.66)、筋骨格障害(aOR 1.34、95%CI 1.01〜1.78(男性因子なし))、男性乳児の泌尿器系疾患(aOR 1.33、95%CI 1.08〜1.65(男性因子あり))のリスクが増加しました。
自己卵子と新鮮胚から妊娠した体外受精単胎児の比較では、顕微授精は、主要な非染色体birth defectsのリスクの増加と関連していました(aOR 1.18、95%CI 1.03、1.35)。blastogenesis defects(aOR 1.65、95%CI 1.08、2.51)、消化管の異常(AOR 2.21、95%CI 1.28、3.82)、その他のbirth defects(aOR 1.11、95%CI 1.01、1.22)のリスクが高まっていました。
自然妊娠の子どもと比較して、体外受精による単胎の兄弟姉妹は、筋骨格系の異常(aOR 1.32、95%CI 1.04、1.67)および全birth defects(aOR 1.15、95%CI 1.08、1.23)のリスクが高くなりました。体外受精妊娠双胎(自己卵子を用いた新鮮胚移植(顕微授精なし))は、染色体異常のリスクが高く(aOR 1.89、95%CI 1.10、3.24)、体外受精妊娠双胎の兄弟はあらゆるbirth defectsのリスクが高くなりました(aOR 1.26、95%CI 1.01、1.57)。
顕微授精を伴わない体外受精で妊娠した単胎児(体外受精出産の約36%)における主要な非染色体birth defectsのリスクが18%増加し、男性因子を伴わない顕微授精妊娠(体外受精出産の約33%)では30%増加し、男性因子を伴う顕微授精妊娠(体外受精出産の約31%)では42%増加しました。

結論

自然妊娠の単胎児と比較して、顕微授精を行わずに自家卵子と新鮮胚で妊娠した体外受精単胎児の主要な非染色体異常のリスクは18%増加し、男性因子診断を伴わない顕微授精と伴う顕微授精では、それぞれ30%と42%増加しました。
この論文には、いくつかの限界があります。SART CORSデータベースでは、受精胚の凍結方法(緩慢凍結とガラス化)を区別することができません。顕微授精のデータは、新鮮胚を用いた体外受精群でのみ入手可能で、凍結融解胚群の受精方法は不明です。着床前検査の出産は解析から除外されています。排卵誘発もしくは人工授精群では、タイプ別に分けることはできませんでした。birth defectsに関するデータは、流産、人工妊娠中絶、死産についてはカウントされず、生児のみを対象としました。またインプリンティング異常に関するデータも入手できていません。

私見

birth defectsに関するこれらの情報は、体外受精のリスクとベネフィットについて患者とカウンセリングする際に含まれるべきであると考えられます。
というのは今回の論文にも書かれていますが、birth defectsは下記のリスクファクターでも上昇するからです。

女性年齢41-43歳
非染色体異常(重大なbirth defectsがあり、染色体異常がない場合)/心血管障害/染色体異常 /あらゆるbirth defects

BMI>30(肥満)
非染色体異常(重大なbirth defectsがあり、染色体異常がない場合)/心血管障害/筋骨格系/あらゆるbirth defects

糖尿病
非染色体異常(重大なbirth defectsがあり、染色体異常がない場合)/blastogenesis/心血管障害/男性乳児の泌尿器系疾患/あらゆるbirth defects

高血圧
非染色体異常(重大なbirth defectsがあり、染色体異常がない場合)/心血管障害

男性乳児の泌尿器系疾患/あらゆるbirth defects
体外受精手技で生児を授かる方が増える一方、birth defectsのリスクもゼロではありません。患者様の現在の状況により判断していくことが大事なんだと考えます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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