はじめに
卵巣予備能について、アメリカ生殖医学会の見解を解説します。日本の現状とは異なる部分もありますが、その理由についても説明できると考えています。当院では卵巣予備能検査はAMHとAFC中心で行っています。AMHは何度も測り直すことは推奨していませんが、AFCは比較的頻繁に評価しています。
ポイント
卵巣予備能検査の予測能力には限界があり、特に自然妊娠や治療後の妊娠率の予測には有用ではありません。AMHとAFCは体外受精での採卵数予測には有効ですが、これらの検査のみで治療方針を決定すべきではありません。
引用文献
Fertil Steril. 2020. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.09.134.
論文内容
⑤卵巣予備能検査は不妊症女性の「自然妊娠の確率」を予測するか?
現時点では、データが限られています。Hunaultモデル(女性年齢、不妊期間、過去の妊娠歴、精液検査、初診の状況を組み入れて、12か月間の自然妊娠率を予測するモデル)には、卵巣予備能は含まれていません。2件の大規模な前向き研究では、卵巣予備能検査(FSHとAFC)が自然妊娠をサポートすることが実証されましたが、Hunaultモデルのみの場合と比較して差がみられませんでした。現段階では「自然妊娠の確率を予測するとは言えない」が答えです。
⑥卵巣予備能検査は不妊症女性の「卵巣刺激を行った人工授精妊娠の確率」を予測するか?
前提として、日本では卵巣刺激を行った人工授精でも多胎を避けるため、単一卵胞発育を目指します。海外では妊娠率を上げるために多数育てる考えがあり、日本の人工授精の現状とは異なる可能性があります。
多くの後方視的研究がありますが、最新のAMIGOS(Assessment of Multiple Intrauterine Gestations from Ovarian Stimulation:無作為化臨床試験)試験の二次解析では、原因不明不妊症を持つ900名の女性に対し、卵巣刺激を行い人工授精を実施した結果、AMHは妊娠率を予測しないことが明らかになりました。現段階では「自然妊娠と同様、卵巣刺激を行った人工授精妊娠の確率を予測するとは言えない」となります。
⑦卵巣予備能検査は「体外受精の卵巣刺激後の採卵数」を予測できるか
AMHとAFCが、体外受精の卵巣刺激(ゴナドトロピン刺激)に対する反応を予測することは十分に実証されています。AMHが極めて低い値(0.16ng/mL未満)であった5,000件以上の新鮮胚移植周期を評価した報告では、周期の54%がキャンセルされ、周期の50.7%が3個以下の採卵となり、25%が移植できない結論となっています。
「体外受精の卵巣刺激後の採卵数は予測できるが、少ないからといって体外受精へのステップアップにネガティブな表現をしないように気をつけるべき」と考えています。
⑧卵巣予備能検査は「体外受精の妊娠と出生」を予測するか?
AMHとAFCは、体外受精の卵巣刺激後の採卵数を予測することはできますが、妊娠・出生まで判断できるかどうかとなると意見が分かれます。
現在までの複数の研究では、AMHは、せいぜい妊娠の弱い予測に過ぎないとされています。多重ロジスティック回帰モデルでも、AMHは明らかに妊娠を予測する因子ではありますが、女性年齢、精液検査、胚発育、卵巣刺激、培養技術など重要な役割を果たす変数は他にもたくさんあります。患者さまへの説明の仕方は慎重にしたほうがよいでしょう。
⑨卵巣予備能検査は組み合わせると意味があるか
こちらも結論には至っていません。
AMH、インヒビンB、およびAFCと卵巣容積の3次元評価を組み合わせた前向き研究では、組み合わせることのメリットが得られなかったと結論づけています。最近ではAMHとAFC両方で検討するか、AFC単独でよいのかという論文が複数出ていますが、基本的にAFC単独でも問題なさそうです。
ただし不妊治療の現場では、「卵巣予備能検査は複数項目の検査を実施するのが一般的」となっています。費用対効果を考えながら進めるべきですが、AMHとAFCは最大30%の確率で不一致となることがわかっていますので、現段階ではAFC単独でよいという結論には至っていません。
⑩卵巣反応不良(poor ovarian response)とは何か?
ヨーロッパ生殖医学会のワーキンググループが卵巣反応不良のボローニャ基準を提唱しています。以下の3つの基準が存在することとしています。
1. 40歳以上の母体年齢、またはその他の卵巣反応不良の危険因子
2. 前回の体外受精の卵巣刺激での卵巣反応の悪さ
3. 異常な卵巣予備能値
⑪どのような患者が卵巣予備能検査を受けるべきか?
不妊症のカップルをケアする際、医師は年齢や不妊要因を用いて、治療計画を調整します。卵巣予備能検査は、カウンセリングと治療計画を夫婦に提供するための一項目にはなります。
ただし、卵巣予備能検査は絶対的なものではなく、この結果によって早く体外受精を進めたり、治療終結を提案したり、他の検査をしないで卵巣予備能単独で不妊ドックに用いたり、社会的な卵子凍結保存を誘導することに使用するべきではないとしています。ここはまだまだ議論が出てきそうな部分です。
私見
まとめとして下記のようにまとめられています。
- クロミッド負荷試験の卵巣反応不良、体外受精後の妊娠、または自然妊娠を予測するための検査精度は、基本的なマーカーよりも優れているとは言えないため卵巣予備能検査として実施しないことが好ましいとされています。
- 現在、AMHとAFCは卵巣予備能の最も感度が高く信頼性の高いマーカーです。
- 卵巣予備能検査を組み合わせることは、単一の卵巣予備能検査よりも一貫して予測能力を向上させるわけではありません。
- 卵巣予備能のマーカーは、一般女性の妊娠する力を予測するものではありません。
- 卵巣予備能検査は、不妊症女性の自然妊娠の確率を予測するのには有用ではありません。
- 卵巣予備能検査は、原因不明不妊症の卵巣刺激を行う人工授精の妊娠率を予測するものではありません。
- 体外受精における採卵数の予測には、AMHとAFCの有効性が十分に実証されています。
- AMHが非常に低い場合も体外受精治療を拒否してはいけません。
- AMHとAFCは、卵子の質、臨床妊娠率、出生率などとは弱い関連性しかありません。
- 体外受精中の卵巣刺激に対する卵巣の反応が悪い場合は、DORを反映しており、さらなる卵巣予備能検査は不要と考えられます。
文責：川井清考（WFC group CEO）
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。
