はじめに
クロミッド卵巣刺激による人工授精サイクル(CC-IUI)において、hCGを投与する日程の適切な卵胞サイズについてのコンセンサスはありません。CC-IUIサイクルにおける臨床妊娠率は、18-28mmの幅広い卵胞サイズで報告されています。Farhiらは、hCGトリガーを卵胞サイズ18~22mmで投与した場合に臨床妊娠率が最も高く、一方、17mm以下または23mm以上の卵胞サイズでhCG投与した場合には臨床妊娠率が低くなることを観察しています。対照的に、CC-IUIを受けた女性777名を対象としたPalatnikらの研究では、卵胞サイズが23~28mmの場合に高い臨床妊娠率であったことが報告されています。Shalom-Pazらは、285のCC-IUI治療サイクルを対象とした研究でも、20mm以上の卵胞サイズでhCGトリガーを投与した場合の臨床妊娠率が高いことを報告しています。
最近当院でも人工授精決定時の卵胞サイズに関しては、細かく管理しているので、今回の論文をとりあげさせていただきました。
ポイント
クロミッド卵巣刺激による人工授精において、卵胞サイズ21mm以上でhCGトリガーを投与した場合に臨床妊娠率が2倍以上高くなることが示されました。卵胞が大きくなることでエストロゲンレベルが上昇し、クロミッドの抗エストロゲン作用を打ち消す可能性が推測されています。ただし、多胎妊娠のリスクについて十分な説明が必要です。
引用文献
Kolbe L Hancock, et al. Fertil Steril 2020. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.026
論文内容
大学附属生殖医療センターで行われた後方視的研究です。対象患者は排卵障害または原因不明の不妊症を有する40歳未満の患者で、初めてのCC-IUIサイクルを受けている患者としました。臨床妊娠率が主要アウトカムであり、1mm単位の卵胞サイズと比較してプロットしました。卵胞サイズと臨床妊娠率の関連については、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて95%信頼区間のオッズ比を算出しました。卵胞サイズが17-19mmで、子宮内膜の厚さが6mmを超えている場合hCGトリガーの対象とし19mm以上の卵胞が3つ以上ある場合はキャンセルとしました。
結果
1,676サイクルが含まれており、全体の臨床妊娠率は13.8%(232/1,676)でした。妊娠した患者としなかった患者背景(年齢、パートナー年齢、BMI、出産回数、卵胞期FSH値、卵胞期AMH値、hCGトリガー日程、hCGトリガーのエストロゲン値、内膜厚)には差はありませんでした。臨床妊娠のオッズは、対象卵胞サイズ19.1~20.0mmと比較して、卵胞サイズが21.1~22.0mmの患者では2.3倍、22.0mm以上の患者では2.2倍高くなりました。卵胞サイズは、交絡因子を考慮した後でも、臨床妊娠率の独立した予測因子となりました。卵胞サイズ22.1mmは、臨床妊娠の感度80.1%、特異度90.4%に相当し、ROC曲線下面積は0.89でした。
私見
クロミッドは使用すると内膜を薄くする作用があると言われています。実際、臨床現場で患者の中には「月経量が減った」、「超音波での内膜厚が薄くなる」という方もいらっしゃいます。今回、Kolbe L Hancockらは卵胞が大きくなるとエストロゲンレベルが高くなり、内膜に対するクロミッドの抗エストロゲン作用を打ち消すことができるのではないかと推測を立てています。これが事実かどうかわかりませんが、臨床妊娠率13.8%は、私たちが目指す10%を超えている数値なので参考にしていきたいと思います。対象年齢33.9歳と若年女性にクロミッドを1錠5日間(排卵障害がある患者には2錠5日間)内服してもらうと彼らのデータでは人工授精を決めた46%もの患者が2個排卵だったとしています。今回の論文には多胎のディスカッションはありません。クロミッドを使用する際は、2個排卵についてしっかり説明義務があると思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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