はじめに
胚盤胞を1つもしくは2つ移植した場合の凍結融解胚移植サイクルの臨床転帰を評価した論文を二報ご紹介します。意外と新鮮胚の成績との比較や初期分割期胚の比較はあるものの、2個の凍結融解胚盤胞移植(DET: double embryo transfer)の論文はありそうでなかなか見当たりません。
ポイント
凍結胚盤胞を2個移植すると1個移植に比べて妊娠率・出生率は向上するものの、双胎率が大幅に上昇することが確認されています。着床前スクリーニング検査により正倍数性胚盤胞を選別することで、必要のない2個移植を軽減できる可能性があります。
引用文献①
Inna Berin, et al, J Assist Reprod Genet. 2011. DOI 10.1007/s10815-011-9551-7
論文内容
アメリカの後方視的研究です。2002-2008年に凍結胚盤胞移植を実施した243症例(1個の胚盤胞移植群(平均年齢32.7歳):118周期、2個の胚盤胞移植群(平均年齢31.8歳):125周期)を対象としました。
結果
臨床妊娠率(50.4% vs. 34.7%)、出生率(45.8% vs. 30.6%)、双子の出生率(19.3% vs. 0)とそれぞれ2個の胚盤胞移植群と1個の胚盤胞移植群で有意に高くなりました(p<0.05)。新鮮胚移植での妊娠の有無と凍結融解胚の成功率は関連しませんでした。

引用文献②
Atsushi Yanaihara, et al. J Assist Reprod Genet. 2008. DOI 10.1007/s10815-008-9275-5
論文内容
日本の後方視的研究です。2006年に体外受精を実施した患者(470名:562周期)の1つもしくは2つ移植した場合の凍結融解胚移植サイクル(1個の胚盤胞移植群:335名412周期、2個の胚盤胞移植群:135名150周期)を対象としました。
結果
1個の胚盤胞移植群(平均年齢34.6歳)における1周期あたりの臨床妊娠率は40.7%、出生率は29.1%、流産率は21.6%、子宮外妊娠率は1.2%、一卵性双胎率は2.3%、帝王切開率は38.3%でした。2個の胚盤胞移植群(平均年齢34.8歳)では、臨床妊娠率は46%、出生率は35.3%、流産率は16.3%、子宮外妊娠率は4.4%、双胎率は15.9%、帝王切開率は39.6%でした。子宮外妊娠率と双胎率には、1個の胚盤胞移植群と2個の胚盤胞移植群の間に有意な差が認められました(P<0.05)。

私見
2個胚移植は双胎率が上がりますね。費用対効果だけを求めないように今後検討する必要があると考えます。一方で、2個胚移植をしないと救えない患者がいるのではないかということも、臨床医として心の片隅にあります。ただ、反復着床不全の患者様への着床前スクリーニング検査を実施することにより、必要のない2個移植は軽減できると考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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