体外受精

2020.09.08

新鮮胚胚盤胞移植の周産期合併症リスク(Hum Reprod. 2020)

はじめに

移植に関して、当院の第一選択は胚盤胞移植です。分割期胚移植を行っていないわけではありませんが、良好胚の選択には胚盤胞移植が適しており、移植あたりの妊娠率・出産率の上昇が高いことが判明しているからです。ただし、分割期胚より2-3日ではありますが、長期に体外で培養することにより産科合併症が上昇するのではないかということが懸念されます。
私たちは胚盤胞移植を行う場合、凍結した胚盤胞移植であることがほとんどですが、採卵直後に行う新鮮胚胚盤胞移植の周産期合併症リスクの論文がありますのでご紹介させていただきます。

ポイント

新鮮胚盤胞移植では、分割胚移植と比較して前置胎盤リスクが2倍以上、早産リスクも上昇していました。男児の出生率と一卵性双胎率も増加していました。

引用文献

A L Spangmose, et al. Hum Reprod. 2020 DOI: 10.1093/humrep/deaa032.

論文内容

デンマーク、ノルウェー、スウェーデンからのデータを用いた後方視的コホート研究です。新鮮胚移植で生まれた56,557名の単胎児(うち胚盤胞移植は4,601名)、16,315名の双胎児(うち胚盤胞移植は884名)、自然妊娠で生まれた2,808,323名から周産期合併症をロジスティック回帰分析で検証しています。
性別・出産歴・母体年齢・出生年・BMI・喫煙・教育レベル・受精方法・採卵数・国・移植胚数で補正しています。

結果

胚盤胞胚移植後の単胎妊娠では、分割胚移植と比較し前置胎盤のリスクが高く、補正オッズ比は2.11、早産リスクも補正オッズ比1.14と上昇していました。さらに、分割期胚移植と比較し、男女比は男性が多く(補正オッズ比 1.13)、一卵性双胎(補正オッズ比 1.94)も多い結果となりました。

私見

私たちは新鮮胚での胚盤胞移植をほとんど行いませんが、胚盤胞移植がメインですので、胚盤胞移植の周産期リスクに関しては、いつも注意をして論文等の報告もみています。 
日本からの報告もありますが、今のところ胚盤胞移植の周産期リスクは下記のとおりです。 

1. 前置胎盤 
日本も含めて上昇しないという報告も数多くあります(Fernandoら、2012; 石原ら、2014; Oronら、2014)。ご紹介した論文の前置胎盤の増加は新鮮胚移植によるもの、国による前置胎盤の診断基準の違い等の可能性も考えられます。 

2. 常位胎盤早期剝離 
複数の論文でリスク上昇はなさそうです。 

3. 分娩後出血 
リスク上昇はあるという論文があります(Fernandoら 2012)。 

4. 妊娠高血圧症候群 
リスク上昇はあるという論文があります(Ishiharaら 2014)。 

5. 早産 
リスクが上がりそうです(Alviggiら2018)。ただし、胚盤胞移植や凍結などの様々なART手技を重ねると新生児体重が増加するという国内データもあります。 

6. 在胎期間相当の体格より小さく生まれる児(SGA) 
複数の論文でリスク上昇はなさそうです(Alviggiら2018 メタアナリシス)。 

7. 男女比 
意見が分かれるところです。新鮮胚移植では発育が早く、胚盤胞に到達した胚から移植することが多いです。男の子の胚は発育スピードが早いため、新鮮胚移植の場合は、このような選択バイアスがかかっている可能性があります。 

8. 一卵性双胎の割合 
リスクが上がりそうです(Hviidら2018: メタアナリシス)。 
理由はどうであれ、体外受精をするということは、1) 胚を体外で培養していること(温度、pH、酸素濃度などの潜在的な外部ストレス因子への曝露の可能性)、2) 胚移植に関しても通常の妊娠と異なり内膜と胚のコミュニケーション・シンクロの時間が圧倒的に短いことになります。これらは、妊娠に到達するうえでは良い方向に動くこともあれば、悪い方向に動く可能性もあることを、私たち生殖医療に携わる医療者は常に認識している必要があるのだと思います。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚盤胞

# 周産期合併症

# 新鮮胚移植

# 初期胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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