はじめに
患者様から「妊娠しやすい時期に体外受精にトライしたいのですがいつがいいですか?」という質問を受けることがあります。日本のデータでは夏に出生数が多いですから、9ヶ月前の晩秋から初冬が妊娠しやすい時期なのでしょうか。ボストンの体外受精センターの6年間6000以上の体外受精成績と、季節、気温、日照時間との関係を調査した論文がありましたのでご紹介いたします。
ポイント
ボストンの体外受精センターにおける6年間6000以上の症例を解析した結果、体外受精時の季節は出生率と関連していませんでした。気温上昇は臨床妊娠率とわずかに関連していましたが、出生率には影響しませんでした。
引用文献
Leslie V. Farland, et al. J Assist Reprod Genet.2020 DOI: 10.1007/s10815-020-01915-2.
論文内容
ボストンの体外受精センターの6年間6000以上の体外受精成績を用いて、採卵-新鮮胚移植のART成績が季節と関係があるかどうかを調査しました。2012年1月から2017年12月の間に行われた体外受精を季節別、気象記録から得られた地域の気温(最低気温、最高気温、平均気温)と日照時間の長さを三段階に分類し、着床、臨床妊娠、自然流産、出産について多変量ロジスティック回帰を用いて検証しました。
結果
冬に開始された体外受精周期と比較した場合、他の3つの季節の出産の年齢調整オッズに差はありませんでした(春:aOR:0.97、95%CI:0.82-1.13;夏:aOR:1.05、95%CI:0.90-1.23;秋:aOR:0.98、95%CI:0.84-1.15)。気温と着床、臨床妊娠との間には正の線形傾向がありました(着床、p = 0.02;臨床妊娠、p = 0.01)が、出産との関連はありませんでした。体外受精時の季節は出産とは関連していないことがわかりました。しかし、我々のデータは、6-7月の採卵では臨床妊娠の確率がやや高く、採卵時の気温の上昇は臨床妊娠の確率の上昇と関連していますが、出産とは関連していないことが示されました。
私見
ボストンでのデータです。ボストンの気候は日本の函館から札幌にあたるくらいでしょうか。ですので、ここで示されている夏の気温・日照時間は千葉県の夏とは異なります。当院に関しては採卵時期による成績に差がありません。体外受精は季節性が基本なさそうですので、患者様の都合に応じてステップアップの時期を決める形でよいでしょう。
季節とART成績には関係がないという報告
- Fleming et al. 1994
- Gindes et al. 2003
- Revelli et al. 2005
- Wunder et al. 2005
- Kirshenbaum et al. 2018
- Xiao et al. 2018
季節とART成績に差があるという報告
- Rojansky et al. 2000:胚質
- Wood et al. 2006:着床率
- Vandekerckhove et al. 2016:日照時間と雨の量が出生率と関連
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。