はじめに
無排卵は不妊原因の約25%を占める重要な要因です。排卵誘発の治療において、経口薬であるクロミフェンクエン酸塩やレトロゾールが第一選択薬として使用されますが、これらの薬剤が無効な場合や、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の場合には、外因性ゴナドトロピン製剤による治療が必要となります。アメリカ生殖医学会とアメリカ生殖内分泌不妊学会の実践委員会は、無排卵女性に対するゴナドトロピン製剤使用に関する包括的なガイドラインを発表しました。このガイドラインは適応、治療前評価、レジメン、モニタリング、合併症について詳細に検討しています。
ポイント
ゴナドトロピン製剤による排卵誘発は単一卵胞発育を目標とし、多胎妊娠とOHSSリスクを最小化するため低用量から開始し、厳重なモニタリングが必要です。
引用文献
Fertil Steril. 2020;113(1):66-70. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.020.
論文内容
無排卵女性における排卵誘発のためのゴナドトロピン治療について検討し、推奨される治療前評価、適応、治療レジメン、および治療の合併症について概説しています。外因性ゴナドトロピンは、他のより複雑でない方法では排卵誘発が達成できない場合や、無排卵である不妊女性において排卵誘発のために使用できます。また、複数卵胞の発育を誘導する目的で、排卵のある女性においても卵巣刺激のために使用することも可能です。
適応については、ゴナドトロピンは低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(WHO分類I型)と正ゴナドトロピン性正ゴナドとトロピン症(WHO分類II型)の治療に適応があります。高ゴナドトロピン性性腺機能低下症すなわち早発卵巣不全(WHO分類III型)は一般的に外因性ゴナドトロピンに反応しません。PCOS女性では経口薬に反応しない場合にゴナドトロピン治療が適応となりますが、OHSSと多胎妊娠のリスクが著明に増加するため低用量レジメンが強く推奨されます。
治療レジメンとして、PCOS女性では内因性LHレベルが十分であるため外因性FSH単独で排卵誘発が可能です。推奨アプローチは最初の用量設定サイクルにおいて37.5-75 IU/日の低用量ゴナドトロピンから開始し、7日以上経過後に10mm以上の卵胞が発育しない場合に小刻みに増量することです。視床下部性無月経女性では、FSHとLHの両方の活性を有するゴナドトロピン製剤による治療が必要で、hMGまたはFSHとrLHまたは低用量hCGの組み合わせが用いられます。
モニタリングに関しては、ゴナドトロピン治療の安全性と有効性は経腟超音波検査とエストラジオール測定による注意深いモニタリングに依存します。超音波検査は治療開始後4-5日目以降、反応に応じて1-3日間隔で実施すべきです。複数の中間サイズ卵胞の存在も多胎妊娠のリスクを増加させるため、2個以上の16mm以上の卵胞または3個以上の10mm以上の卵胞が発育した場合は周期のキャンセルを考慮すべきです。
治療成績として、無排卵女性におけるゴナドトロピンによる排卵誘発の系統的レビューでは、13研究で周期あたり妊娠率15%、平均2.7周期で患者あたり妊娠率41%が報告されています。肥満や耐糖能異常のある女性はより高用量のゴナドトロピンが必要で、耐糖能異常は妊娠率の低下と関連していました(OR 0.24, 95%CI 0.08-1.71)。
私見
このASRMガイドラインは、無排卵女性に対するゴナドトロピン製剤使用の標準的指針を提供する重要な文書です。近年の研究では、遺伝子組み換えFSH(rFSH)と尿由来ゴナドトロピン(hMG)の有効性に差がないことが確認されており(Bayram N, et al. Cochrane Database Syst Rev, 2001)、治療選択における柔軟性が示されています。PCOS患者における低用量プロトコルの重要性については、欧州での多施設研究でも支持されており(Cristello F, et al. Gynecol Endocrinol, 2005)、OHSS発症率の著明な減少が報告されています。
視床下部性無月経に対するLH活性の必要性については、複数のランダム化比較試験で確認されており(The European Recombinant Human LH Study Group. J Clin Endocrinol Metab, 1998)、FSH単独では不十分な症例でのrLH追加投与の有効性が示されています。一方で、GnRHアゴニストトリガーについては、PCOS患者のOHSS予防効果が注目されており(Balasch J, et al. Gynecol Endocrinol, 1994)、hCGトリガーの代替手段として有用性が報告されています。
黄体期プロゲステロン補充に関しては、視床下部性無月経では明確な適応がありますが、PCOS患者については議論が分かれており、今後のエビデンス蓄積が期待されます(Green KA, et al. Fertil Steril, 2017)。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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