体外受精

2020.05.18

正倍数性胚凍結融解胚移植前の子宮内膜compactionが継続妊娠率を改善させる(Fertil Steril. 2020)

はじめに

正常で健康な妊娠が成立するためには、最低限、正常な正倍数性胚と受容性のある子宮内膜の2つの必須要素が必要です。胚の異数性は早期流産の主要な原因として知られており、着床前遺伝学的検査(PGT-A)を実施することで、胚移植後の出生率向上の可能性が示唆されています。しかし、PGT-Aで正常と判定された胚でも着床に失敗する症例が存在します。今回、PGT-Aで正常と判定された胚の凍結融解胚移植において、エストロゲン相終了時から胚移植日(プロゲステロン投与6日後)までの子宮内膜厚の変化と継続妊娠率の関連を調査した研究をご紹介します。

ポイント

正倍数性胚の凍結融解胚移植において、プロゲステロン投与後の子宮内膜の圧縮(compaction)が15%以上認められると継続妊娠率が有意に向上しました。 

引用文献

Zilberberg E, et al. Fertil Steril. 2020;113(5):990-995. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.12.030. 

論文内容

ホルモン調整周期での凍結融解胚移植において、エストロゲン相終了時から胚移植日(プロゲステロン6日後)までの子宮内膜厚の変化が正倍数性胚の継続妊娠率に与える影響を評価することを目的とした観察コホート研究です。単一三次医療センターで実施され、234症例のホルモン調整凍結融解胚移植サイクルの超音波画像を評価しました。全ての移植は、PGT-A後の正倍数性胚による選択的単一胚移植でした。 
エストロゲン相終了時と胚移植時(プロゲステロン6日後)の子宮内膜厚の超音波測定を実施し、エストロゲン相終了時と胚移植時の子宮内膜厚の差を継続妊娠率との関連で評価しました。継続妊娠率は妊娠12週以降の超音波検査での胎児心拍確認と定義されました。 

結果

プロゲステロン投与後に子宮内膜が5%、10%、15%、20%減少(compaction)したサイクルでの継続妊娠率を計算し、子宮内膜がcompactionしなかったサイクルと比較して、全てのcompaction率で有意に高い妊娠率を示しました。15%以上のcompactionを認めたコホートでの継続妊娠率は51.5%で、子宮内膜がcompactionしなかったサイクルの30.2%と比較して有意に高値でした(P=0.02)。 

15%のcompactionをカットオフとした場合の感度は41.5%、特異度は77.6%でした。全体のcompaction率(15%以上の減少)達成率は29.3%でした。回帰分析では、採卵時年齢(OR=1.032; 95%CI, 0.952-1.120)およびBMI(OR=0.974; 95%CI, 0.905-1.049)は有意ではありませんでした。プロゲステロン投与前の子宮内膜厚(OR=1.167; 95%CI, 0.993-1.372)も継続妊娠率に有意な影響を与えませんでした。一方、PGT-A検査胚の胚形態学的グレード(OR=0.406; 95%CI, 0.221-0.749)は継続妊娠率に有意な正の影響を与えました。15%以上の子宮内膜compactionは継続妊娠率の向上に有意な効果を示しました(OR=2.206; 95%CI, 1.151-4.228)。 

興味深いことに、反復着床不全(RIF)を理由としてPGT-Aを実施したサイクルでは、compaction率が全コホートの29.3%(66/225)に比べて11.4%(4/35)と低値を示しました。 

Compactionの程度 Compactionありの妊娠率 Compactionなしの妊娠率 有意差 
5%カットオフ 44.3% (43/97) 30.5% (39/128) あり 
10%カットオフ 45.3% (39/86) 30.9% (43/139) あり 
15%カットオフ 51.5% (34/66) 30.2% (48/159) あり 
20%カットオフ 54.9% (28/51) 31.0% (54/174) あり 
Compactionカットオフ別の妊娠率 
 Compaction群 非Compaction群 有意差 
患者数 66 159  
年齢 35.7±4.2 35.9±3.7 なし 
BMI 24.0±4.2 24.2±4.7 なし 
P補充前内膜 10.2±1.9 9.1±1.8 あり 
移植時内膜 7.4±1.7 9.9±2.1 あり 
compaction 15%カットオフの患者特性 

私見

本研究は、PGT-Aで正常と判定された胚でも着床に失敗する原因の一つとして、子宮内膜のプロゲステロン反応性が重要である可能性を示唆しています。子宮内膜compactionの機序は完全には解明されていませんが、プロゲステロンに対する適切な反応の指標と考えられます。 
これまでの研究では、子宮内膜厚と妊娠成績の関連について議論が分かれていました。一部の研究では子宮内膜厚と妊娠成績に正の相関があるとされていますが(Kovacs P, et al. Hum Reprod, 2003; Zhang X, et al. Fertil Steril, 2005; Al-ghamdi A, et al. Reprod Biol Endocrinol, 2008)、他の研究では明確な関連性は認められていません(Garcia-Velasco JA, et al. Fertil Steril, 2003; Laasch C, et al. J Assist Reprod Genet, 2004; Kasius A, et al. Hum Reprod Update, 2014)。 

移植時の子宮内膜評価に関する研究は限定的で、新鮮胚移植サイクルでの検討(Griesinger G, et al. Hum Reprod Open, 2018)では胚移植日の子宮内膜厚は妊娠成績の予測因子として不十分とされていました。しかし、本研究は単一の測定値ではなく、エストロゲン相とプロゲステロン相での内膜厚の変化(delta)に着目した点が新規性を有しています。 
反復着床不全患者でcompaction率が低いという知見は、これらの患者群でのプロゲステロン抵抗性の可能性を示唆しており、治療戦略の検討が必要と考えられます。今後は、compactionが不十分な症例に対するプロゲステロン増量、投与期間延長、天然周期への変更などの介入研究が期待されます。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# ホルモン調整周期下胚移植

# 子宮内膜厚、形態

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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