論文紹介
Delaying testicular sperm extraction in 47,XXY Klinefelter patients does not impair the sperm retrieval rate, and AMH levels are higher when TESE is positive.
Renault L et al., Hum Reprod. 2022 Oct 31;37(11):2518-2531. PMID: 36112034.
47,XXYクラインフェルター症候群症例の精巣内精子採取術の実施時期を遅らせても精子採取率は低下せず、TESE精子陽性の症例ではAMH値が高い
クラインフェルター症候群(KS)は、男性不妊の遺伝的原因として最も頻度の高いものです。新生男児の1/500~1/700、無精子症患者の11%、不妊症男性の1~2%と推定されています(Lanfranco et al., 2004)。いくつもの研究で、KS症例の無精子症では加齢とともに精巣内精子採取術(TESE)における精子採取率の成績が低下することから、より若いうちにTESEを行うことが勧められています。今回の研究はこの知見について前向きの研究で検討したものです。
KS患者の無精子症では、非閉塞性無精子症(NOA)を呈することが通常のため、我が国では顕微鏡下精子採取術(micro-TESE、精巣を大きく開いて精子を探し出す手術)が一般的に行われています。しかしながら、NOAに対してmicro-TESEがconventional TESE(cTESE、精巣の一部を切開して精子を採取する手術)に比較して優れているというエビデンスがないため、欧米ではmicro-TESEが選択されないことも少なくありません。今回の研究はconventional TESEでのデータになります。
研究の要旨
研究のまとめ
精巣内精子採取術(TESE)における精子採取率(SRR)の差は、並行して前向きにリクルートされた非モザイクのクラインフェルター症候群(KS)症例の若年(young、15~22歳)コホートと成人(adult、23~43歳)コホートの間に有意差を認めませんでした。
既知の知見
いくつかの研究で、非モザイクのKS症例におけるTESEの結果の予測因子の同定が試みられていますが、結果はさまざまで一致をみていません。一部の研究では、年齢(加齢)が悪化の要因であるとし、思春期後すぐにTESEを行うことも推奨しています。現在までのところ、無精子症のKS患者にTESEの実施を決定する際に、臨床医が参考にできるコンセンサスのある予測因子は定まっていません。
研究デザイン、規模、期間
2つのコホート(若年:15~22歳、成人:23~43歳)が並行して前向きに組み入れられました。2010年から2020年にかけて、フランスのリヨン大学病院の生殖医療部門でリクルートされた。非モザイクの47,XXYのKS患者157症例を対象としました。31人の患者がTESEの前に治療を断念し、4症例がcryptozoospermia(精液の遠心分離後に数えるほどの精子を認める)、3症例が有効なホルモン評価を受けませんでしたので、これらの症例は本研究から除外されました。
登録患者、設定、方法
119症例(若年61症例、成人58症例)のデータが解析されました。これらの患者はすべて、conventional TESE(cTESE)の前に臨床的、ホルモン的検査及び、精液検査が実施されました。
主な結果
全体のSRRは45.4%でした(図)。SRRは2つのグループで有意差を認めませんでした: 若年のSRR 49.2%、成人のSRR41.4%; P=0.393. 抗ミューラー管ホルモン(AMH)とインヒビンBは、若年グループで有意に高く(AMH:P=0.001、インヒビンB:P < 0.001)、またTESEで精子採取できた症例では、採取できなかった症例よりも高い結果でした(AMH:P=0.001、Inhibin B:P=0.036)。その他の因子は、年齢層間やTESEの結果で差はありませんでした。AMHはインヒビンBよりも優れた予測値でした。SRRは、AMH血漿レベルの上位四分位で下位四分位よりも有意に高い結果でした(またはAMH血漿レベルが測定限界未満である症例よりも): 全症例では67.7%対28.9%(P=0.001)、若年層では60%対20%(P=0.025)、成人層では71.4%対33.3%(P=0.018)でした。
研究の限界
本研究全体ではcTESEが用いられていました。顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)が実施された場合、結果が異なる可能性があります。インヒビンBおよびAMHアッセイの感度が限られているため、多数の患者が定量限界より低い値を示し、TESEでの精子採取陰性を予測する閾値を決めることができませんでした。
研究結果の意義
いくつかの研究とは対照的に、15~22歳の患者と23~44歳の患者を比較した場合、年齢は要因とはなりませんでした。将来的にインヒビンBとAMHアッセイの精度が向上すれば、精子形成を認める症例の判別が可能になり、臨床医の意思決定や患者情報の指針となる可能性があります。
図

筆者の意見
非閉塞性無精子症において、精巣内精子採取術における精子採取率は欧米に比べて我が国を含むアジア諸国では低いとされています。そのため、我が国の生殖医療のガイドラインでもmicro-TESEが推奨されています。したがって、今回の研究結果をそのまま当てはめることは難しいかもしれません。
今回の研究での対象となった症例の年齢は、若年が17.9 [16.8–19.7] 15.7–22.5(平均[ICR]範囲)歳、成人が31.6 [28.7–34.4] 23.1–43.9となっていました。つまり、成人例でもさほど高齢ではありません。一方、このような症例での精子採取率は32歳以上では有意に低いという報告もあります(Ferhi K et al., Andrologia, 2009, PMID 19260843)。我が国からの報告では35歳を境に精子採取率が低下するとされています(Okada H et al., Fertil Steril, 2005, PMID 16359961)。そのため32から35歳くらいまではTESEの実施年齢によって精子採取率は相違がないということだとも考えられます。当施設では、不妊外来を受診した無精子症の男性の年齢の平均が34歳ですので、やはりなるべく早めにTESEを勧めていきたいと思います。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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