男性不妊

2023.11.25

男性パートナーに対するクロミフェンクエン酸塩は効果的です

研究の紹介

男性不妊症に対するクロミフェンクエン酸塩: 系統的レビューとメタアナリシス 
Clomiphene citrate for male infertility: A systematic review and meta-analysis 
Huijben M, et al. Andrology. 2023 Sep;11(6):987-996. doi: 10.1111/andr.13388. PMID: 36680549. 

男性不妊症は我が国だけでなく世界的な問題であり、治療が困難なことも少なくないものです。クロミフェンクエン酸塩は選択的エストロゲン受容体モジュレーターで、ホルモン産生と精子形成を刺激することにより精液所見の改善させる作用のある薬剤です。我が国でも生殖医療の保険適用により2022年4月から正式に乏精子症に対して処方可能となりました。その有効性は以前から認識されていた薬剤で保険適用化する前から自費診療でも用いられていました。その一方で、クロミフェンクエン酸塩の男性不妊症治療としての有効性に関するエビデンスは不足している状況であることも事実です。 

研究の要旨

この研究では、クロミフェンクエン酸塩の不妊男性に対する精液所見改善効果を評価するために、系統的レビューとメタアナリシスを行いました。 
研究の方法は以下のようになっています。PubMed、EMBASE、Cochraneという各データベースを用いて、不妊男性に対するクロミフェンクエン酸塩による治療の有効性についての研究の検索をしました。介入研究と観察研究の両方を含めて解析が行われました。主要評価項目は精液検査所見の各パラメータ(濃度、運動率、形態)の改善でした。副次的評価項目は、内分泌学的評価、妊娠率、副作用です。治療前および治療中のデータが示されている研究をメタアナリシスの対象としました。 

結果

次のような結果になりました。合計1,799件の研究が同定され、18件の研究が質的分析(n = 731)に、15件の研究がメタアナリシス(n = 566)に利用されました。対象となった症例数は、研究ごとに11~140人の範囲でした。精子濃度は治療中の方が高く、治療前との差の平均は8.38×10^6 /mlでした(95%信頼区間:5.17-11.59; p < 0.00001)。精子運動率は治療中の方が高く、治療前との差の平均は8.14%(95%信頼区間:3.83-12.45;p<0.00001)でした。治療前と治療中の精子の形態に差を認めませんでした。総テストステロン値、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンおよびエストラジオールは、クロミフェンクエン酸塩での治療中に有意に上昇しました。追跡調査中に重篤な副作用を認めませんでした。10の研究で妊娠率が報告されており、クロミフェンクエン酸塩による治療中の妊娠率の平均は17%でした(範囲:0%~40%)。 

クロミフェンクエン酸塩の投与の結果、精子濃度と精子運動率が増加しており、この薬剤投与は不妊症男性の精液検査所見を改善する安全な治療法と考えられるというのがこの研究の結論です。 

筆者の意見

保険診療で男性パートナーの方にクロミフェンクエン酸塩が使えるようになってまだ間もないのですが、筆者も乏精子症の患者さんに積極的にお勧めしています。実際にその効果を実感していますし、重篤な有害事象も経験していません。この研究のように精子濃度とともに精子運動率も上昇することが期待できます。他に有効な治療薬がないため重宝しています。治療開始後ホルモン値に反応があるかどうかいつもチェックしていますが、中にはテストステロン値が基準値以上に跳ね上がってしまって調整が必要な方がいるので慎重に使用しています。児の状態について調査が入る予定とのことですが、いずれ、更なる安全性の評価の結果が我が国からも出されると思われます。 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# クロミフェン、AIなど

# 精液所見

# 総説、RCT、メタアナリシス

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

抗酸化サプリは妊娠率を上げる?大規模臨床試験の結果(JAMA Network Open, 2025)

2025.10.25

プロバイオティクスで精索静脈瘤手術の効果が向上(J Res. Med. Sci., 2023)

2025.09.27

シンバイオティクスで精子の質改善 (Int J Reprod BioMed、2021)

2025.09.20

抗酸化サプリメント高用量摂取のマウス精子を用いたリスク検証(F S Sci. 2025)

2025.07.04

組み換え型hCG製剤投与によるマイクロTESE成績向上の試み 

2024.07.13

男性不妊の人気記事

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

日本から男性妊活用抗酸化サプリメントの最新エビデンスです 

2024.02.10

射精から時間が経つと精液検査所見は悪化する?

2023.02.18

精索静脈瘤についてAndrologiaに掲載された最近の研究結果② ~精索静脈瘤手術後の再発に対する再手術~

精索静脈瘤についてAndrologiaに掲載された最近の研究結果① ~精索静脈瘤に対する抗酸化剤サプリメント~

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

妊娠女性における葉酸サプリメント摂取状況と情報源(Public Health Nutr. 2017)

2025.12.09

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10