論文の紹介
生殖医療専門施設で診断された精索静脈瘤の治療成績
(その3 精索静脈瘤術後の妊娠と生児獲得について)
柴田裕貴、小宮顕、川井清考ほか
日本受精着床学会雑誌40(2): 192-199, 2023
この論文は、当クリニックのデータベースを用いて、千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学の柴田裕貴先生がまとめてくれたものです。日本受精着床学会雑誌に掲載されましたので、少し詳しく3回にわたってご紹介しています。
3回目の今回は最後ですが、いよいよ妊娠と生児獲得についてです。
i )精索静脈瘤術後の妊娠率及び生児獲得率
術後1年以内に臨床妊娠をえたのは27例(30%)で、その後生児獲得まで確認できたのは26例(28.9%)でした。
経過観察期間を1年以上まで延長して解析すると、53例(58.9%)で妊娠を得て、51例(56.7%)で生児獲得を確認しました。
女性側の治療で見ると、精索静脈瘤の術後のタイミング法や人工授精での治療では、19例中10例(52.6%)で生児獲得、cIVF/ICSIでは71例中41例(57.7%)で生児獲得していました。つまり、精索静脈瘤術後は、ARTでもそうでなくても同様の生児獲得率であったということになります。ちなみに、精索静脈瘤術後に自然に経過を見ていた方はいませんでした。また、女性パートナーが38歳以上の場合、ほとんどでcIVF/ICSIが行われていました。
ii )精索静脈瘤術後の生児獲得の予測因子について
生児獲得をした症例と、獲得できなかった症例のデータを比較してみました。
短変量解析では、生児獲得した症例はそうでない場合と比較して、有意に男性年齢が低く(平均36.5歳 vs. 39.2歳)、術前の精子濃度が高い (29.6×10^6/mL vs. 14.8×10^6/mL) 結果で、術前の総運動精子数は高い傾向(25.5×10^6 vs. 14.3×10^6)を示していました。多変量解析を行うと、生児獲得についての独立した予測因子は、男性パートナーの年齢、術前の精子濃度、術前の総精子数の三つでした。
iii )まとめ
これらの結果をまとめますと、精索静脈瘤の術後では6割近い妊娠率と生児獲得率が得られ、これは女性側の治療内容とあまり関連性がないこと、また、より年齢が低く、精子数がなるべく多いうちに手術した方が生児獲得する確率が高いということがいえます。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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