はじめに
体外受精・人工授精前に精索静脈瘤手術を勧めるかどうかを示した2021年のレビュー(無精子症に対する対応は割愛)をご紹介いたします。
ポイント
精索静脈瘤手術の選択には、現在の精液所見、女性パートナーの年齢や不妊原因、術後3-6ヶ月の待機期間の許容度などを総合的に判断する必要があります。不妊治療専門医への相談が推奨されます。
引用文献
Jaden R Kohn, et al. Res Rep Urol. 2020. DOI: 10.2147/RRU.S198934
論文内容
MEDLINEおよびEMBASEにおいて、精索静脈瘤(varicocele, varicocelectomy, varicocele repair, varicocele treatment, varicocele correction)および不妊治療(assisted reproductive technology, intrauterine insemination, IUI, in vitro fertilization, IVF, intracytoplasmic sperm injection, ICSI)に関連する用語を用いて文献調査を行いました。すべての論文タイプを対象としました。検索は、言語を英語のみに限定して行いました。
精索静脈瘤手術がIUIの成績に与える影響
3つの研究があります。
最初の研究は1992年にMarmarらによって発表されました。71人の不妊男性(52名:手術、19名:手術なし)を対象としたこのレトロスペクティブなコホート研究です。IUIの成功率はほぼ同じでした。
次の研究は、2001年にDaitchらによって発表されました。58人の男性(34名:手術、24名:手術なし)を対象としたこのレトロスペクティブ研究です。この研究では、術後に精液所見が改善していなくてもIUIの妊娠や出生率に向上する可能性を示唆しています。
3つめの研究は、2008年にBomanらによって報告されました。118人の不妊男性(69名:手術、49名:手術なし)をレトロスペクティブに評価しました。手術により運動精子数2,960万から3,900万へと有意に増加しました(p<0.05)。手術を受けた男性の74%が自然妊娠もしくはIUIで妊娠できたのに対し、手術を受けなかった男性では36%しか妊娠できなかったことを報告しています(p<0.01)。
以上の3つの研究では、術後にIUIの妊娠率が高まることを示唆していますが、これらの研究は小規模であり、いくつかの重要な交絡因子(女性の年齢、IUIの実施回数、手術から妊娠までの期間など)については言及されていません。
精索静脈瘤手術が乏精子症男性の体外受精結果に与える影響
4つの研究が報告されています。成績の向上を示唆する論文が3本、効果がないという論文が1本です。
□ 効果あり
最初の研究は、1989年にAshkenaziらが手術を実施した乏精子症の不妊男性22人を2年間にわたってレトロスペクティブに分析しました。20%の方が分娩に至りました。この年代にしては画期的な取り組みでした。
2つめの研究は、2010年にEstevesらが、242人の不妊男性(80名:手術、162名:手術なし)の体外受精の結果をレトロスペクティブに比較しました。体外受精での臨床的妊娠率は、手術群では60%、非手術群では45.0%でした。同様に、出生率は手術群では46.2%、非手術群では31.4%でした。
3つめの研究は、2013年にGokceらが、306人の不妊男性(168名:手術、138名:手術なし)の体外受精の結果をレトロスペクティブに比較し、体外受精の前に手術を行うことで妊娠率と出生率が向上することを強く示唆する結果となっています。
□ 効果なし
2012年、Pasqualottoらは、248名の不妊男性(169名:手術、79名:手術なし)を対象に、体外受精の結果を比較しました。非手術群、手術群で妊娠率(31.1%vs. 30.9%、P = 0.9806)、着床率(22.1%vs. 17.3%、P = 0.5882)、流産率(21.7%vs. 23.9%、P = 0.8401)は、差を認めませんでした。
□ メタアナリシス
Kirbyらが2016年に実施したメタアナリシスでは、上記の論文を含めて解析をしていますが、体外受精を実施する前に精索静脈瘤手術を実施することは、女性年齢が高くないカップルの出生率を大幅に向上させる可能性に触れました。
手術から体外受精までの期間
Ashkenaziら:記載なし、Gokceら:7.2ヶ月、Estevesら:7.2ヶ月、Pasqualottoら:記載なし。推奨に値する明確な答えはありませんが、手術後3-6ヶ月で精液所見は改善するとされているため、効率を考えていくなら少なくとも3~6ヵ月待つことが好ましいのではないでしょうか。
精索静脈瘤手術とDNAフラグメンテーションの関係
ここ数年、DNAフラグメンテーション(DNA断片化、DFI)の増加が、人工授精または体外受精周期における成績に影響を与えることが報告されています。いくつかの研究では、精子DNAフラグメンテーションが精索静脈瘤手術によって改善されることが示されています。メタアナリシスでは、精索静脈瘤手術後のDFIが平均で3.37% (95% CI: 2.65%~4.09%) 改善したことが報告されています(Wang YJ, et al. Reprod Biomed Online. 2012)。しかし、DNAフラグメンテーションと妊娠成績の関係はまだまだエビデンスが乏しく、DFIの改善だけをみると精索静脈瘤手術よりTESEにより精巣内精子をとったほうが低くなることもわかっているので、まだまだDNAフラグメンテーションから手術適応を判断するには時期尚早なのかもしれません。
私見
患者さまが精索静脈瘤手術を受けるかどうかの選択としてですが、現在の精液所見、女性パートナーの不妊原因や年齢、そして精索静脈瘤の手術を行ったとした際の術後の精液所見の回復する前の時間3-6ヶ月を待てるかどうか、精液所見が改善したとして不妊治療を今後どのように進めていくのかなどが判断材料となってきます。現在行われている顕微鏡下精索静脈瘤手術は、回復時間が短い手術ですが、現在かかりつけの不妊治療専門医に総合的に治療判断をご相談するのが推奨されています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。