研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
精索静脈瘤手術の治療成績に対するBMIの影響
英語タイトル
The Effect of Body Mass Index on the Outcomes of Varicocelectomy
Pham KN, 他. J Urol. 2012 Jan;187(1):219-21. doi: 10.1016/j.juro.2011.09.033. PMID: 22100008.
はじめに
男性不妊外来を受診される方の中には、一定数の肥満の方がいらっしゃり、さらに精索静脈瘤を合併しているケースも少なくありません。このような場合、不妊の主な原因が「肥満」にあるのか、「精索静脈瘤」にあるのか、あるいは「その両方」なのか、もしくは別の要因なのかを明確に判断することは容易ではありません。また、肥満の改善は生活習慣の見直しを含めた長期的な取り組みが必要であり、短期間で十分な効果を得ることは難しいのが現実です。一方で、精索静脈瘤は手術により改善が期待できる疾患であり、男性不妊治療において重要な治療選択肢の一つです。
「肥満があるから手術の効果は乏しいのではないか」「まずは体重を減らしてから手術を検討すべきなのか」といった疑問は、患者さんだけでなく医療者側にとっても悩ましい問題です。本コラムでは、肥満と精索静脈瘤を併せ持つ男性において、精索静脈瘤手術がどの程度有効なのかを検討した論文をもとに、治療選択の考え方について解説します。
研究のポイント
- 精索静脈瘤手術の効果が、術前のBMI(Body Mass Index, 体格指数)によって左右されるかを検討した研究です。
- 正常体重、過体重、肥満のいずれの群でも、精液所見の改善率および妊娠率に有意差はありませんでした。
- BMIにかかわらず、精索静脈瘤手術は有効で安全な治療と考えられました。
研究の要旨
目的
肥満は男性不妊の要因の一つと考えられていますが、肥満男性における精索静脈瘤手術の成績を検討した報告はあまりありません。本研究では、Body Mass Index(BMI)が精索静脈瘤手術の転帰に有意な影響を及ぼすかどうかを検討しました。
対象と方法
2003年9月から2009年12月までに顕微鏡下精索静脈瘤手術(低位結紮術)を受けた患者を後ろ向きに解析しました。BMIにより、正常体重(18.5~24.9)、過体重(25~29.9)、肥満(30以上)の3群に分類しました。術後精液検査で、1射精あたりの総運動精子数(TME)が50%以上増加した場合を「有意な改善」と定義しました。
結果
143例が解析対象となりました。TMEの有意な改善率は、正常体重群71.1%、過体重群61.0%、肥満群58.7%でした。妊娠率はそれぞれ43.8%、43.5%、46.3%でした。正常体重群と過体重群、正常体重群と肥満群の間で、TME改善率および妊娠率に有意差は認められませんでした。
結論
触知可能な精索静脈瘤を有する男性では、術前BMIにかかわらず、精索静脈瘤手術により精液所見および妊娠率の改善が期待できます。過体重および肥満男性における治療成績は、正常体重男性と同程度であり、精索静脈瘤手術は安全かつ有効に実施可能です。
| BMI区分 | BMI範囲 | 症例数 | 術前平均 TME (百万) | 精液所見の 有意改善率 (TME 50% 以上増加) | 妊娠率 (自然妊娠+ 人工授精) |
|---|---|---|---|---|---|
| 正常体重 | 18.5–24.9 | 38人 | 10.7 | 71.1% | 43.8% |
| 過体重 | 25.0–29.9 | 59人 | 15.5 | 61.0% | 43.5% |
| 肥満 | ≥30.0 | 46人 | 10.8 | 58.7% | 46.3% |
注)
術前のTME(総運動精子数)は3群間で有意差なし
BMIにかかわらず、手術後に約6割前後で精液所見の有意改善を認める
TMEの改善率、妊娠率ともにBMI別で有意な差は認められない


私見と解説
本研究において、BMIが高い男性であっても、正常体重の男性と同様に精索静脈瘤手術後の精液所見改善や妊娠が期待できることが示された点は、臨床的に非常に意義のある結果と考えます。肥満はホルモンバランスの変化や陰嚢温度の上昇などを通じて精子形成に悪影響を及ぼす可能性があり、「肥満があると手術の効果が乏しいのではないか」と感じることも少なくありません。しかし本研究は、肥満の有無にかかわらず、治療可能な因子である精索静脈瘤を適切に治療することで、一定の精液改善効果が得られることを示しています。体重管理は重要ですが、改善には時間を要することが多く、その間に妊娠のチャンスが低下する可能性もあります。精索静脈瘤という治療対象がある場合には、体重減少を待つだけでなく、並行して手術を検討することは合理的な選択肢といえます。男性不妊治療では、改善可能な要因から一つずつ対応していくことが重要であり、本研究はその考え方を支持する内容と言えるでしょう。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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