はじめに
凍結融解胚移植は単一胚移植の推進やOHSSリスクの低減など多くの利点があり、近年急速に増加しています。しかし凍結融解胚移植では妊娠高血圧症候群のリスク増加が複数報告されています。特にホルモン調整周期では黄体が欠如しており、relaxinやVEGFなどの血管作動性物質が補充されないため、周産期合併症に影響を与える可能性が示唆されています。今回、デンマークの国家レジストリを用いて、異なる凍結融解胚移植プロトコルにおける産科的・周産期予後を比較したレジストリベースのコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
ホルモン調整周期での凍結融解胚移植では、自然周期と比較して妊娠高血圧症候群、産後出血、帝王切開のリスクが有意に高く、出生体重4,500g以上のリスクも増加します。
引用文献
Louise Laub Asserhøj, et al. Fertil Steril. 2021 Apr;115(4):947-956. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.039.
論文内容
デンマークにおいて2006年から2014年に体外受精による単胎分娩1,136例を対象としたレジストリベースのコホート研究です。凍結融解胚移植周期を以下の3群に分類しました:ホルモン調整周期(n=357)、修正自然周期(mNC-FET、n=611)、真の自然周期(tNC-FET、n=168)。解析では修正自然周期と真の自然周期を統合し自然周期群としました。産科的アウトカム(妊娠高血圧症候群、早産前期破水、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、分娩誘発、産後出血、帝王切開)および周産期アウトカム(過期産、早産、出生体重、SGAsmall for gestational age、LGAlarge for gestational age)を評価しました。多変量解析では児の性別、分娩歴、母体年齢、分娩年、受精方法、培養期間、単一胚移植の有無で調整しました。
結果
ホルモン調整周期群は自然周期群と比較して、妊娠高血圧症候群(調整OR 1.87、95%CI 1.17-3.00)、子癇前症(調整OR 2.40、95%CI 1.43-4.02)、分娩誘発(調整OR 1.68、95%CI 1.29-2.19)、産後出血(調整OR 2.24、95%CI 1.68-2.99)、帝王切開(調整OR 1.52、95%CI 1.15-2.01)のリスクが有意に高い結果でした。周産期アウトカムでは、ホルモン調整周期群において出生体重4,500g以上のリスクが有意に増加しました(調整OR 1.95、95%CI 1.09-3.48)。
サブ解析において、ホルモン調整周期群と修正自然周期群の比較では、妊娠高血圧症候群(調整OR 1.99、95%CI 1.20-3.29)、子癇前症(調整OR 2.86、95%CI 1.61-5.10)、分娩誘発(調整OR 1.71、95%CI 1.29-2.26)、産後出血(調整OR 2.22、95%CI 1.64-2.99)、帝王切開(調整OR 1.57、95%CI 1.17-2.12)のリスクがホルモン調整周期群で高く、さらに32週未満の超早産のリスクも増加しました(調整OR 2.95、95%CI 1.06-8.23)。ホルモン調整周期群と真の自然周期群の比較では、分娩誘発(調整OR 1.65、95%CI 1.07-2.54)および産後出血(調整OR 2.32、95%CI 1.43-3.75)のリスクが高い結果でした。
私見
ホルモン調整周期凍結融解胚移植妊娠の産科・周産期の有害な転帰に関する結果は、デンマーク、スウェーデン、日本、中国、米国で最近発表された研究は同様の結果となっています。
研究に比較された対象者のホルモン調整周期凍結融解胚移植の割合は以下の通りです。スウェーデン、デンマーク、日本は国のレジストリなので、日本がホルモン調整周期治療が多いのがわかります。
- デンマークの研究(今回の論文)
ホルモン調整周期凍結融解胚移植:31% - スウェーデンの研究(Ernstad EGら. Am J Obstet Gynecol. 2019)
ホルモン調整周期凍結融解胚移植:15% - 日本の研究(Saito Kら. Hum Reprod. 2019)
ホルモン調整周期凍結融解胚移植:72% - 中国の研究(Jing Sら. J Assit Reprod Genet. 2019)
ホルモン調整周期凍結融解胚移植:24% - 米国の研究(Makhijani Rら. Reprod Biomed Online. 2020)
ホルモン調整周期凍結融解胚移植:50%
国内でもSaito Kらの調査の時よりホルモン調整周期凍結融解胚移植が減ってきているはずです。
臨床的には、ホルモン調整周期の利便性は高く評価されていますが、本研究の結果を踏まえると、特に妊娠高血圧症候群のハイリスク患者では自然周期や低刺激周期での凍結融解胚移植を優先的に考慮すべきかもしれません。無排卵女性に対しては、低用量ゴナドトロピンやアロマターゼ阻害薬による単一排卵誘発も有効な選択肢となり得ます(Gynecol Endocrinol. 2018)。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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