
はじめに
中川先生がまとめたタクロリムスの総説です。
反復着床不全(RIF)の原因として血清Th1/Th2細胞比に着目した免疫学的検査を実施し、Th1/Th2細胞比上昇例に対してカルシニューリン阻害薬であるタクロリムスによる治療を開始しました。今回、約10年間の使用経験と最新の知見をまとめたものの個人的に興味がある部分をピックアップしてコラムに掲載しておきたいと思います。
ポイント
反復着床不全(RIF)の3割前後で血清Th1/Th2細胞比上昇が認められ免疫以上によるART不成功が考えられました。タクロリムス治療により臨床妊娠率50-64%が得られ、流産予防や周産期合併症予防への応用も期待されます。
引用文献
Koji Nakagawa, et al. J Reprod Immunol. 2026;173:104824. doi: 10.1016/j.jri.2025.104824.
論文内容
ARTにおける反復着床不全(RIF)に対する免疫療法、特にカルシニューリン阻害薬タクロリムスによる治療について、約10年間の経験をまとめたナラティブレビューです。著者らは2011年より、RIF症例に対して末梢血T細胞サブセット(Th1/Th2細胞)をフローサイトメトリーで測定してきました。Th1細胞はCD4+リンパ球でIFN-γ陽性かつIL-4陰性、Th2細胞はCD4+リンパ球でIL-4陽性かつIFN-γ陰性と定義し、Th1/Th2細胞比≥10.3を異常高値としました。
結果
RIF症例における血清Th1/Th2細胞比上昇の頻度
2012年4月から2018年12月までの448例のRIF症例(3回以上の良好胚盤胞移植後も臨床妊娠に至らなかった症例)を解析した結果、血清Th1/Th2細胞比≥10.3を示した症例は169例(37.7%)でした。2023年3月から2024年12月までの78例の再評価では28例(35.9%)が同様の頻度を示しました。
タクロリムス治療の効果:
・2015年の初回報告では、血清Th1/Th2細胞比上昇を示すRIF女性25例に対し、胚移植2日前から妊娠判定日まで1-3mg/日のタクロリムスを投与しました。hCG陽性率64.0%、胎嚢確認率64.0%、継続妊娠率60.0%で、対照群(すべて0%)と比較して有意に高い結果でした。
・2017年の報告では124例の治療により臨床妊娠率は41.9%でした。血清Th1細胞値を3群(低値<22.8、中等度22.8-28.8、高値≥28.8)に分類したところ、高値群では流産率が35.7%と低値群(5.0%)より有意に高く(P<0.05)、出生率も21.4%と低値群(46.3%)より有意に低い結果でした(P<0.05)。この結果を受けて、血清Th1高値例ではタクロリムスを1mg/日追加投与することで、流産率と出生率が低値群と同等になりました。
・2023年3月から2024年12月の再評価では、血清Th1/Th2細胞比上昇を示す28例に2-4mg/日のタクロリムスを胚移植2日前から投与し、hCG陽性率57.1%(16/28)、胎嚢確認率57.1%(16/28)、継続妊娠率50.0%(14/28)で、10年前の報告と一致する高い妊娠率が再現されました。
流産予防効果の可能性:
不育症(4回以上の流産歴)と血清Th1/Th2細胞比上昇を示す女性に対するタクロリムス治療では、生化学的流産率が有意に低下し、出生率が対照群より有意に高い結果でした。12回連続流産歴のある症例では、タクロリムス2mg/日で出産に成功しましたが重症妊娠高血圧症候群を合併し、その後の妊娠で3mg/日に増量することで合併症なく出産できました。
周産期合併症予防の可能性:
2018年1月から2021年3月までのRIFまたは不育症女性1106例のうち、妊娠22週以降に分娩した583例を解析しました。早産は32例(5.5%)、妊娠高血圧腎症は12例(2.1%)に発生しました。早産群では血清制御性T細胞(Treg)値が5.82%と非早産群(6.34%)より有意に低値でした(P=0.03)。血清Th1、Th2細胞数および血清Th1/Th2細胞比には両群間で差はありませんでした。ROC曲線解析により、血清Treg値6.13%が早産予測のカットオフ値として同定され(AUC=0.614、95%CI 0.518-0.709、P<0.05)、Treg値<6.1%の女性では早産発生率が8.0%(20/251)とTreg値≥6.1%の女性4.0%(12/332)より有意に高い結果でした(P=0.0223)。妊娠高血圧腎症についてもTreg値が低い傾向がありましたが(5.45% vs 6.33%)、統計学的有意差には至りませんでした(P=0.136)。
産後免疫変遷:
タクロリムス治療により第1子を出産後、第2子を希望して来院した83例の免疫学的再評価では、42例(50.6%)で血清Th1細胞値が第1子妊娠前より上昇し、同様に42例(50.6%)で血清Th2細胞値も上昇していました。血清Th1/Th2細胞比が第1子妊娠前より上昇していた35例(42.2%)のうち、28例がタクロリムス使用により妊娠し、臨床妊娠率は67.9%(19/28)でした。
私見
ART不成功におけるタクロリムス治療の10年間をまとめられた総説です。
タクロリムスの有効性については、2023年Cavalcanteらのメタアナリシスでも支持されています (Cavalcante, et al. J Reprod Immunol. 2023)。2025年ASRIガイドラインでは、カルシニューリン阻害薬が不育症の出生率を改善する可能性が低レベルエビデンスとして示されています(Cavalcante, et al. Am J Reprod Immunol. 2025)。
安全性に関しては、腎移植レシピエント206例での先天異常発生率が自然妊娠と同等であったこと(Norrman, et al. Hum Reprod. 2015)、タクロリムスが妊娠中のレシピエントに低リスクであること(Will, et al. Can Fam Physicians. 2014; Briggs, et al. 2011)が報告されています。
タクロリムスとシクロスポリンの比較では、タクロリムスは半減期が長く(35時間 vs 5-18時間)、トラフ値が低い(5-10 ng/ml vs 80-150 ng/ml)ため、用量調整が容易で血中濃度が安定しやすいという利点があります。
今後、タクロリムス用量調整を血中濃度でモニターしていくべきかどうか、個人的には興味があるところです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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