一般不妊

2022.08.23

子宮内膜症ガイドライン(ESHRE2022 guideline:不妊)

はじめに

欧州生殖医学会の子宮内膜症ガイドラインがアップグレードされました。
不妊に関する部分をご紹介いたします。

ポイント

ウルトラロング法を過去のリコメンドからエビデンス改定をふまえて有効性を疑問視した点、体外受精前後の手術のあり方について再構成された点、がポイントのようです。

引用文献

Becker CM, et al. ; ESHRE Endometriosis Guideline Group. ESHRE guideline: endometriosis.
Hum Reprod Open. 2022 Feb 26;2022(2):hoac009. doi: 10.1093/hropen/hoac009.

論文内容

●子宮内膜症不妊女性にホルモン療法/内科療法は有効ですか?

・子宮内膜症不妊女性に、妊孕性を改善するために卵巣機能抑制(ピルや注射などを使った偽閉経療法)を行うべきではありません。(Hughes et al. 2007)
強い推奨 ⊕⊕○○

・妊娠を希望する女性には、将来の妊娠率を高めることを目的として、内膜症術後卵巣機能抑制はルーチンで行うべきではありません。(Chen et al. 2020)
強い推奨 ⊕⊕○○

・内膜症術後すぐに妊娠することができない女性に、ホルモン療法は将来の妊孕性に悪影響を与えず、痛みに関しては有効性があるため提供しても問題ありません。(Chen, et al. 2020)
弱い推奨 ⊕⊕○○

・子宮内膜症不妊女性において、自然妊娠率向上を目的にペントキシフィリン(日本未発売)、その他の抗炎症薬、排卵誘発目的以外でのレトロゾールの使用を推奨しません。(Alborzi, et al. 2011; Lu, et al. 2012)
強い推奨 ⊕○○○

●子宮内膜症不妊女性に、自然妊娠の可能性を高めるために手術は有効ですか?

・腹腔鏡手術は、継続妊娠率向上のためrASRM stage I/IIのような軽度子宮内膜症女性の治療オプションとして考えても問題ありません。(Jin and Ruiz Beguerie, 2014; Bafort et al, 2020; Hodgson et al, 2020)
弱い推奨 ⊕⊕○○

・比較研究のデータは乏しいですが、自然妊娠を高めるため、子宮内膜症性囊胞に腹腔鏡手術を考慮しても問題ありません。(Dan and Limin, 2013; Alborzi et al, 2019; Candiani et al, 2020)
弱い推奨 ⊕○○○

・深在性子宮内膜症に対する腹腔鏡手術が妊孕性を改善するという強いデータは存在しませんが、治療オプションと考えて問題ありません。(Meuleman, et al. 2011; Vercellini, et al. 2012; Iversen, et al. 2017)
弱い推奨 ⊕○○○
手術の実施は、疼痛症状、患者年齢や希望、過去の手術歴、他の不妊因子の有無、卵巣予備能、EFI指数などを参考に決定することを推奨しています。
GPP

●子宮内膜症手術後に体外受精を受けることを勧めますか?

推奨はしていませんが、委員会メンバーは術後に妊娠の可能性について患者にカウンセリングを行うことを推奨しています。EFI指数を参考にすること、精液検査、そのほかの不妊原因を加味して総合的に判断することを推奨までしていませんが、提案しています。

●子宮内膜症不妊女性に体外受精は有効ですか?

・rASRM stage I/IIのような軽度子宮内膜症女性において、妊娠率を高めるために、待機管理(タイミング指導)や薬剤を用いない人工授精ではなく、卵巣刺激を用いた人工授精を行うことを推奨しています。(Nulsen, et al.1993; Tummon, et al. 1997; Omland, et al. 1998)
弱い推奨 ⊕○○○

・卵管疎通性確認できている中等度以上のrASRM stage III/IVの子宮内膜症女性における人工授精の意義は不明ですが、卵巣刺激を用いた人工授精は検討の価値があります。(van der Houwen et al, 2014)
弱い推奨 ⊕○○○

・卵管疎通性が低下している場合、男性不妊がある場合、EFI指数が低い場合、他の不妊治療でうまくいかなかった場合、子宮内膜症女性に体外受精を推奨しています。(Harb, et al. 2013; Hamdan, et al. 2015; Senapati, et al. 2016; Murta, et al. 2018; Muteshi, et al. 2018; Alshehre, et al. 2021)
弱い推奨 ⊕⊕○○

・子宮内膜症女性における体外受精の特定の卵巣刺激プロトコルはありません。GnRHアンタゴニスト法とGnRHアゴニスト法(ロング法やショート法)は、妊娠率や出生率に差がないことが実証されているため、患者希望や医師の判断で提供して問題ありません。(Pabuccu, et al. 2007; Rodriguez-Purata, et al. 2013; Bastu, et al. 2014; Kolanska, et al. 2017; Drakopoulos, et al. 2018)
弱い推奨 ⊕○○○

・子宮内膜症女性は、体外受精の実施の有無により内膜症再発率は変わりません。(Benaglia, et al. 2008; Somigliana, et al. 2019)
弱い推奨 ⊕⊕⊕○

・子宮内膜症女性では、採卵後の卵巣膿瘍のリスクは低いですが、予防抗菌薬を検討しても問題ありません。
GPP

●子宮内膜症女性の体外受精治療の前治療オプション(ホルモン療法)は有効ですか?

・子宮内膜症女性の出生率を改善するためにウルトラロング法を行うことは有益性が不確かであるため推奨されていません。(Georgiou, et al. 2019; Cao, et al. 2020; Kaponis, et al. 2020)
強く推奨 ⊕○○○

・子宮内膜症女性の出生率を改善するために、ピルや黄体ホルモン薬を長期投与することは十分な根拠がありません。(de Ziegler, et al. 2010)
弱い推奨 ⊕○○○

●子宮内膜症女性の体外受精治療の前治療オプション(手術療法)は有効ですか?

・rASRM stage I/IIのような軽度子宮内膜症女性において出生率を改善するために体外受精前にルーチンで腹腔鏡手術を行うことは効果がはっきりしていないため推奨されていません。(Opoien, et al.2011; Hamdan, et al. 2015)
強い推奨 ⊕⊕○○

・子宮内膜症性囊胞の手術は卵巣予備能に悪影響を及ぼす可能性が高いため、出生率を向上目的に体外受精前に手術をルーチンに行うことは推奨されていません。(Coccia, et al. 2014; Hamdan, et al. 2015; Nickkho-Amiry, et al. 2018; Şükür, et al. 2021)
強い推奨 ⊕⊕○○

・子宮内膜症に伴う疼痛の改善目的や採卵時の卵胞穿刺のアクセスを改善目的においては、体外受精前に子宮内膜症性囊胞の手術を検討してもよいとされています。
GPP

・体外受精前に深部子宮内膜症の外科的切除を行うかどうかは、RCTがないため生殖医療成績に対する効果が不明です。疼痛の改善目的や患者との話し合いによって判断することを推奨しています。(Bianchi, et al. 2009; Soriano, et al. 2016; Bendifallah, et al. 2017; Breteau, et al. 2020)
強い推奨 ⊕○○○

●子宮内膜症不妊女性に非医学的介入は有効ですか?

子宮内膜症女性の妊孕性を向上させる根拠がしめせないため、栄養指導、漢方、電気療法、鍼灸、理学療法、運動療法、心理的介入の支持は推奨できないとしています。

私見

海外ガイドラインが国内治療指針より有意というわけではないですが、共通点、異なるところなどを把握しながら患者ごとに対応方法を決めていくことが大事だと考えています。

~関連コラム~

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 手術

# 子宮内膜症

# 卵巣刺激

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

PCOS/内膜症/併存疾患に関連するタグ

あわせて読みたい記事

手術的に診断された子宮内膜症の病型別初出生率(Fertil Steril. 2026)

2026.05.13

子宮内膜症と血清AMH:ステージ・病変別の解析(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.05.12

PCOS女性の排卵誘発治療中の体重変化と出生率(Fertil Steril. 2020)

2026.03.06

JMDC保険者データベースに基づく子宮内膜症疫学(Reprod Biomed Online. 2025)

2026.02.20

F nucleatumと子宮内膜症の関連性:正所性子宮内膜における検討(Fertil Steril. 2025)

2026.02.18

一般不妊の人気記事

腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?

2022.01.24

妊活中の子宮内膜症進行リスク(Hum Reprod. 2025)

2025.08.13

子宮卵管造影後どういうカップルが妊娠しやすい?(論文紹介)

2020.06.10

妊娠できるカップルはほぼ6ヶ月以内に妊娠する。(論文紹介)

2021.11.11

PCOS診断基準(2024)の内分泌異常基準値(J Obstet Gynaecol Res. 2023)

2023.09.12

着床する時期のタイミングは妊娠率に影響するの?(Fertil Steril. 2014)

2020.08.05

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14

2020.10.26

夫婦の体重(BMI)は妊娠しやすさ(不妊)に影響する?(Fertil Steril. 2020)

2020.10.26

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27