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2026.03.27

IUI+ARTは母親年齢上昇による出生率低下を補償できない可能性_マイクロシミュレーション研究(Hum Reprod. 2026)

はじめに

加齢に伴い自然妊娠率だけでなく不妊治療による妊娠率も低下します。本論文で用いられる「MAR(medically assisted reproduction)」とは、IUIとARTを包含する広義の不妊治療全体を指す用語です。オランダではART出生の割合が1996年の約1%から2021年には3%超に増加しましたが、IUIを含む不妊治療全体が晩産化に伴う出生率低下をどの程度補えるかについては十分に検討されていません。今回、オランダの1974〜1984年出生コホート100万人のマイクロシミュレーションにより、MAR(IUI+ART)のCCFへの寄与を推定した研究をご紹介いたします。

ポイント

理想的条件下(MAR利用率100%・年齢上限なし)でも不妊治療(IUI+ART)は晩産化による出生率低下を補えませんでした。MAR出生として観察される児の約3分の1は治療がなくても自然妊娠で生まれていた可能性があり、MARの真の寄与は観察値より小さいことが示されました。

引用文献

Granholm R, et al. Hum Reprod. 2026;00(00):1-11. doi: 10.1093/humrep/deag006.

論文内容

オランダの1974〜1984年出生コホートの女性において、MAR(IUI+ART)が晩産化に起因する同居パートナーシップ内のCCF低下を補えるかどうかをマイクロシミュレーションにより検討したものです。

シミュレーションモデルの概要

モンテカルロ・マイクロシミュレーションモデルを構築し、100万人の仮想女性の生殖ライフコースを15歳から55歳まで月単位でシミュレーションしました。モデルは「パートナーシップ形成シミュレーション」と「生殖シミュレーション」の二段階で構成され、教育水準・同居開始・避妊行動・自然妊娠の試み・不妊診断・MAR治療への移行を再現します。MAR治療プロセスはオランダの保険償還制度に準拠し、IUI最大6サイクル→IVF/ICSI最大3サイクル(+FET)という段階的な流れを再現しています。38歳未満の女性はHunaultモデルに基づく自然妊娠確率が58%未満の場合にMAR治療へ移行するよう設定されています。反事実シミュレーション(「もしMARがなく、全カップルがより長い期間自然妊娠を試みていたらどうなるか」という仮定)を実行し、MARの純寄与を推定しました。

結果

IUIサイクル数や待機期間の変動はCCFにほとんど影響しませんでした。その理由として、MAR開始基準が比較的緩やかで、多くの女性がIUI妊娠率と同等以上の自然妊孕力を持った状態でIUIを開始していた可能性が挙げられています。一方、MAR利用率を0%から100%に引き上げるとCCFは直線的に0.06児増加し、IVF/ICSIサイクル数を1から6に増やすとCCFは約0.05増加しましたが、4サイクル目以降で横ばいとなりました。不妊診断後のIVF/ICSI治療までの待機期間を1か月から12か月に延長するとCCFは約0.02低下しました。
MAR治療開始の最低年齢が20〜30歳ではCCF変化パターンはほぼ同一でしたが、35歳では水準・増加率ともに低下し、40歳ではさらに低下しました。主因は高齢でのMAR妊娠率低下、子宮内胎児死亡確率の増加、MAR開始前の自然妊娠挑戦期間です。
MARの純寄与は女性1人あたり0.043児(非MAR CCFの2.5%増)であり、観察されたMAR出生のCCFシェア0.064児(3.7%)より33%小さい値でした。この差の0.021児は、MAR治療がなくてもより長い待機管理のもとで自然妊娠に至っていたであろう児に相当します。MARの相対的寄与は35〜39歳(6.0%)および40歳以上(8.6%)で最も強く、絶対数では寄与の72%が30〜39歳に集中していました。
平均初産年齢を1年、3年、5年引き上げた「理想的MARシナリオ」(MAR利用率100%・年齢上限なし)でも、CCFはそれぞれ0.02、0.08、0.16低下し、晩産化が進むほどMARの補償能力は弱まることが示されました。

私見

仮にMAR利用率を100%・年齢上限なしとしても、晩産化によるCCF低下(初産年齢5年遅延でCCF 0.16低下)に対しMARの増加分は0.06児にとどまり、根本解決にはならないことを示sされています。導入効果としてはIVF/ICSIサイクル数は4サイクルまでが有効で以降は横ばいとなり、不妊診断後の待機期間短縮(1か月 vs 12か月でCCF 0.02差)が重要です。また、MAR出生の約3分の1は自然妊娠で代替可能であり、MARの真の寄与は観察値より小さいことも忘れてはなりません。
日本においてもART出生の割合は年々増加し晩産化が進行しています。本研究はオランダのデータに基づくものですが、「不妊治療は晩産化に対する万能の解決策ではない」というメッセージは普遍的であり、プレコンセプションケアや妊孕性に関する教育の重要性を改めて示唆するものと考えます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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