
はじめに
不妊症を経験している女性ではQOLの低下が広く認められており、特に卵巣予備能低下(DOR)の女性はQOLが低くなりやすいことが報告されています。DOR女性は相対的テストステロン不足を呈する可能性が指摘されており、不妊治療の一環としてアンドロゲンが処方されることも少なくありません。しかし、不妊治療中の女性に対するテストステロン投与がQOLに及ぼす影響を評価した研究はこれまでありませんでした。今回、DOR女性における経皮テストステロン投与のQOLへの影響を検討したRCTの二次解析をご紹介いたします。
ポイント
DOR女性に対する経皮テストステロン(5.5mg/日、60日間)投与は、プラセボと比較して不妊関連QOLを改善しませんでした。
引用文献
Leathersich SJ, et al. Hum Reprod. 2026;41(2):231-238. doi: 10.1093/humrep/deaf233.
論文内容
DOR女性における経皮テストステロン投与が不妊関連QOLを改善するかどうかを検討することを目的とした、二重盲検プラセボ対照RCTの事前計画された二次解析です。2015年4月から2022年8月に募集された288名のうち、治療前後にQOL調査を完了した213名が本解析の対象となりました。対象者はBologna基準によるDORを有する18〜43歳の女性で、スペイン、ベルギー、デンマークの8つの不妊治療施設でIVF治療を予定していました。参加者は経皮テストステロン5.5mg/日(1%ジェル)(n=106)または同一のプラセボ(n=107)に無作為に割り付けられ、卵巣刺激開始前に中央値60日間にわたり投与されました。QOLはFertiQoL質問票を用いて、介入開始前および介入終了後(卵巣刺激開始前)に評価されました。QOLスコアは、年齢、BMI、出産歴、IVF治療歴、ベースラインFertiQoLスコアで調整した一元配置ANCOVAにより比較されました。
結果
テストステロン群(n=106)とプラセボ群(n=107)の間で、ベースライン特性に有意差は認められませんでした。テストステロン群の年齢は37.8±3.8歳、プラセボ群は38.0±3.3歳、AMHはそれぞれ1.29±4.05 ng/ml、0.74±1.02 ng/ml、AFCは4.8±2.3個、4.6±1.6個でした。調整後の解析において、テストステロン投与はTotal FertiQoLスコアに対してプラセボより優れた効果を示しませんでした(F(1,204)=0.07、P=0.79)。Core FertiQoLスコア(F(1,204)=1.49、P=0.22)、Treatment FertiQoLスコア(F(1,204)=0.88、P=0.35)にも群間差は認められませんでした。調整後平均値として、Total FertiQoLはテストステロン群72.9±1.2、プラセボ群73.2±1.2、Core FertiQoLはテストステロン群70.7±1.6、プラセボ群72.7±1.6、Treatment FertiQoLはテストステロン群76.7±1.6、プラセボ群75.1±1.7であり、いずれのサブスケール(Emotional、Mind-Body、Social、Tolerability、Environment)においても有意差は認められませんでした。治療終了時の血清総テストステロン値は、テストステロン群がプラセボ群より有意に高値でした(3.2±2.7 nmol/l vs 0.6±0.4 nmol/l、P<0.001)。SHBG値は両群間で同等でした(56.5±27.1 nmol/l vs 61.0±28.9 nmol/l)。有害事象の発生率に群間差はありませんでした。
私見
現時点のエビデンスを総合すると、DOR女性に対するテストステロン投与はQOL改善の目的では正当化されず、この集団を支援するためには他のエビデンスに基づいた介入方法を検討する必要があると考えられます。不妊治療中の女性の精神的健康は治療継続率や累積出生率にも影響することが報告されており、QOL改善に向けた包括的なアプローチが今後さらに重要になるものと思われます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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