
はじめに
子宮内膜の細菌叢において、Lactobacillus優位な環境がART成績の向上と関連することが知られています。しかし近年、Lactobacillusの相対的存在比だけでは子宮内膜の機能的状態を十分に反映できない可能性が示唆されています。菌の「組成」だけでなく「菌量(bacterial load)」、すなわちLactobacillusや病原菌を問わず子宮内膜に存在する全細菌DNAの絶対量が、着床や妊娠継続、さらには細菌叢標的治療への反応性を左右する重要な指標となりうるかもしれません。今回、反復着床不全(RIF)患者を対象に、子宮内膜細菌叢の菌量とART成績との関連を探索的に評価した後方視的研究をご紹介いたします。
ポイント
菌量の定量評価は、細菌叢の組成解析を補完し、ARTにおける子宮内膜環境の評価精度を向上させる可能性があります。
引用文献
Kadogami D, et al. J Reprod Immunol. 2026;173:104830. doi: 10.1016/j.jri.2025.104830.
論文内容
子宮内膜細菌叢の菌量がART成績の評価や予測に有用な指標となるかを検討することを目的とした後方視的研究です。国内ARTクリニックにおいて2020年8月から2024年9月に子宮内膜細菌叢解析を受けた反復着床不全(RIF)の女性223名で、良好胚盤胞(Gardner分類3BB以上、Day 5)を3回以上移植しても出産に至らなかった症例を対象にしています。
子宮内膜サンプルは着床期に採取しVarinos社にてDNA抽出・解析が行われました。
菌量の測定には、ほぼすべての細菌に共通して保存されている16S rRNA遺伝子のV1-V2可変領域を標的としたユニバーサルプライマーによるqPCRが用いられました。ユニバーサルプライマーは菌種を問わず16S rRNA遺伝子を増幅するため、Lactobacillusであれ病原菌であれ、全細菌のDNA総量が1 mLあたりのコピー数(copies/mL)として算出されます。方、細菌叢の組成解析には同じV1-V2領域の16S rRNAシーケンシングが行われ、配列の違いからどの菌がどれだけの割合で存在するかを同定しています。
Lactobacillus≧80%をLactobacillus優位(LD)、<80%を非Lactobacillus優位(NLD)と分類しました。初回評価でLD-1群118名、NLD-1群105名に分類され、NLD-1群にはメトロニダゾール(750 mg/日、250 mg×3回、7日間経口投与、初日に膣坐剤250 mgを併用)と膣プロバイオティクス坐剤(Lactobacillus crispatus LCR04、7日間)による標準化治療が実施されました。再評価の結果、42名がLD(LD-2)へ転換し、63名がNLD(NLD-2)のまま残存しました。LD-1とLD-2を合わせたLD-T群と、NLD-2群の菌量を比較しました。
結果
LD-T群(n=160)の菌量は平均1.9×10⁸ copies/mL、中央値1.2×10⁷ copies/mLであり、NLD-2群(n=63)は平均3.3×10⁷ copies/mL、中央値3.1×10⁶ copies/mLでした。両群間の菌量には有意差が認められました(p=0.0018、Mann-Whitney U検定)。
凍結融解単一胚盤胞移植を受けた107名のうち、78名が着床し53名が継続妊娠に至りました。多変量ロジスティック回帰分析において、菌量(三分位にカテゴリ化:Low, Middle, High)は着床率と有意な関連を示しませんでした(Low vs Middle: OR 0.80, 95%CI 0.25–2.53, p=0.706; High vs Middle: OR 1.00, 95%CI 0.31–3.23, p=0.994)。胚盤胞の質は着床改善の傾向を示しましたが有意ではありませんでした(OR 2.27, 95%CI 0.75–6.86, p=0.148)。母体年齢は着床と境界域の負の関連を示しました(OR 0.87/年, 95%CI 0.76–1.00, p=0.048)。継続妊娠の予測モデルでは、菌量は有意な関連を示しませんでした(Low: OR 0.78, 95%CI 0.14–4.46, p=0.781; High: OR 5.13, 95%CI 0.55–48.06, p=0.152)。一方、良好胚盤胞は継続妊娠と独立して有意に関連しました(OR 17.46, 95%CI 2.74–111.27, p=0.002)。
治療反応性については、治療後にeubiosisへ転換した群の治療前状態(NLD-1a)と、dysbiosis持続群の治療前状態(NLD-1b)の間で菌量に統計学的有意差は認められませんでした(p=0.40)が、NLD-1a群の方が平均菌量は数値的に高い傾向がありました。年齢およびBMIはいずれも菌量と有意な相関を示しませんでした(年齢: R²=−0.0027, p=0.447; BMI: R²=0.0036, p=0.212)。
私見
LD群がNLD群より有意に菌量が高かったという知見は、子宮内環境が本質的にLactobacillus増殖を支持する環境であることを示唆しています。
過剰な菌量はバイオフィルム形成や慢性炎症を介してトロホブラスト浸潤を障害する可能性があります(Ravel J, et al. Genome Med. 2016; Swidsinski A, et al. Histol Histopathol. 2014)。ただ、少なすぎても免疫機序を維持できないとも著者らは考えているようです。
Kadogami et al.(Reprod Biol. 2020)による前方視的研究では、抗菌薬とプロバイオティクスの併用によりNLD患者の78.6%でLactobacillus回復が得られたことが報告されています。著者らは、borderline dysbiosisで高菌量の患者にはプロバイオティクス単独療法を、低菌量の患者には広域抗菌薬や免疫調節療法の併用を検討するといった治療層別化の可能性を提案しています。
菌量という新たな評価軸の提示は臨床的に興味深く、組成解析との統合により子宮内膜環境のより精密な評価が期待されます。今回の検討はユニバーサルプライマーによるqPCRで測定された全細菌DNA総量による検証となっていますので個別菌量を今後比較検討していきたいところです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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