
はじめに
RIFの原因は受精胚側(染色体異常・酸化ストレス)や子宮内膜側(卵管留水症・粘膜下筋腫・内膜ポリープ)などに大別されますが、近年、慢性子宮内膜炎(CE)が着床不全に関与する子宮内膜因子として注目されています。CEは内膜間質への形質細胞浸潤を特徴とする局所炎症状態であり、無症候性で見過ごされやすい疾患です。今回、RIF女性におけるCE有病率と経口抗生剤治療後の出生率を前向きに検討した本邦グループによるプロスペクティブ研究をご紹介します。
ポイント
RIF女性の約1/3にCEが検出され、抗生剤によるCE治癒後の凍結融解胚盤胞移植では出生率が有意に改善(32.8% vs 22.1%)した。
引用文献
Kitaya K, et al. Am J Reprod Immunol. 2017;78:e12719. doi: 10.1111/aji.12719
論文内容
RIFの既往を有する不妊女性におけるCEの有病率を調査し、経口抗生剤治療によって次回の胚移植(ET)周期での出生率が改善されるかどうかを検討したプロスペクティブ研究です。対象は2011年11月から2014年7月に登録されたRIF既往の不妊女性で、RIFは形態良好な分割期受精胚または胚盤胞を3個以上移植した後も血清hCGが陰性(<2 IU/L)であった場合と定義されました。子宮鏡検査を増殖期(月経周期6〜12日)に施行し、子宮腔内病変の有無を2名の産婦人科医が確認し、子宮内腔癒着・子宮腔変形/中隔・内膜増殖症・悪性腫瘍疑い例は除外されました。内膜生検はcurette(幅3mm)で採取し、免疫組織化学(CD138免疫染色)と病理組織学的検査によりCEを診断しました。内膜間質の形質細胞密度指数(ESPDI)が0.25以上をCE陽性と判定し、残余検体は細菌培養(嫌気・好気培養48時間)・PCRによる微生物検索に供しました(Chlamydia trachomatis・Neisseria gonorrhoeaeのPCR、一部104例でMycoplasma/UreaplasmaのPCRも実施)。
CE陽性のRIF/CEグループには一次治療としてドキシサイクリン経口投与(100mg×2回/日×14日間)を行い、翌月経周期の増殖期に二回目の内膜生検で治癒を確認しました。ドキシサイクリン抵抗例には二次治療としてメトロニダゾール(250mg×2回/日×14日間)とシプロフロキサシン(200mg×2回/日×14日間)の併用療法を実施し、三回目の内膜生検で評価しました。その後最大3回のETサイクルにわたる生殖予後(臨床妊娠率・流産率・出生率)をフォローアップしました。
主要評価項目は出生率(22週未満の妊娠損失を流産と定義)で、治癒RIF/CEグループ(n=116)とRIF/非CEグループ(n=226)を比較しました。
結果
登録438例のうち17例を除外した421例が内膜生検を受け、142例(33.7%)がCEと診断されました(RIF/CEグループ)。RIF/CEグループではRIF/非CEグループと比較して男性因子(23.9% vs 14.7%;P=.022、RR 1.63、95%CI 1.08〜2.44)および原因不明不妊(28.9% vs 19.7%;P=.037、RR 1.46、95%CI 1.03〜2.07)の割合が高く、卵巣予備能低下の割合は低い結果でした(P=.0061、RR 0.58、95%CI 0.38〜0.86)。
微生物検索では、両群間の全体的な内膜菌検出率に差はありませんでしたが(44.4% vs 40.9%、P=.48)、RIF/CEグループではCorynebacterium(P=.0043、RR 19.60、95%CI 2.54〜151.97)およびMycoplasma hominis(P=.035、RR 5.04、95%CI 1.12〜22.61)の検出率が有意に高く、Lactobacillusの検出率は有意に低い結果でした(4.9% vs 12.5%;P=.020、RR 0.39、95%CI 0.17〜0.87)。なおGardnerella vaginalisはRIF/CE群での検出は0%でした。
抗生剤治療の効果として、ドキシサイクリン治療後の二回目内膜生検でのCE組織学的治癒率は92.3%(108/117)でした。ドキシサイクリン抵抗の9例にはメトロニダゾール+シプロフロキサシン併用療法を実施し、三回目内膜生検での治癒率は88.9%(8/9)で、2段階抗生剤治療戦略による総合治癒率は99.1%(116/117)でした。なおドキシサイクリン抵抗例の全例で内膜からの細菌検出が陽性でした(P<.0001)。ドキシサイクリン治療後には、Corynebacterium・Enterococcus・Escherichia coli・Streptococcus agalactiae・Ureaplasma urealyticum・Ureaplasma parvumの検出率が有意に低下し、一方でLactobacillusの検出率が有意に増加しました(治療前5.1% vs 治療後29.1%;P<.01、RR 0.18、95%CI 0.077〜0.41)。
生殖予後については、治癒RIF/CEグループとRIF/非CEグループを比較したところ、第1回ET周期の臨床妊娠率は治癒RIF/CEグループで高い傾向を示しましたが有意差には達しませんでした(37.1% vs 27.0%;P=.052、RR 1.37、95%CI 0.99〜1.90)。累積3回ETサイクルの臨床妊娠率は治癒RIF/CEグループで有意に高く(45.7% vs 34.1%;P=.032、RR 1.34、95%CI 1.02〜1.76)、流産率は両群間で有意差はありませんでした(第1回ET周期:11.6% vs 16.4%;P=.50;累積3回:15.1% vs 23.4%;P=.26)。出生率は第1回ET周期(32.8% vs 22.1%;P=.031、RR 1.48、95%CI 1.03〜2.12)および累積3回ETサイクル(38.8% vs 27.9%;P=.037、RR 1.39、95%CI 1.02〜1.90)のいずれにおいても治癒RIF/CEグループで有意に高い結果でした。移植周期種別のサブグループ解析では、凍結融解胚盤胞移植における第1回ET周期出生率(34.9% vs 22.7%;P=.020、RR 1.54、95%CI 1.07〜2.21)および3回のETサイクルあたりの出生率(17.6% vs 11.2%;P=.017、RR 1.57、95%CI 1.08〜2.27)がいずれも治癒RIF/CEグループで有意に高く、新鮮胚移植では両群間に有意差は認められませんでした。
私見
今回の研究のTable 2に掲載された17菌種をEMMA(子宮内細菌叢異常関連菌)・ALICE(慢性子宮内膜炎関連菌)パネルと照合すると、ALICE菌に該当するのはEnterococcus faecalis・Escherichia coli・Klebsiella pneumoniae・Streptococcus agalactiae・Staphylococcus aureus・Chlamydia trachomatis・Neisseria gonorrhoeae・Mycoplasma genitalium・Mycoplasma hominis・Ureaplasma urealyticum の10菌種で、EMMA菌に該当するのはGardnerella vaginalisの1菌種のみです。一方、いずれのパネルにも含まれない菌種が6種存在する点が重要です。なかでも本研究でCE群と非CE群の差が最も顕著だったCorynebacterium(7.0% vs 0.4%、RR 19.60)はEMMA・ALICEのどちらにも含まれておらず、現行パネルでは検出できない菌種です。またUreaplasma parvumはALICEパネルのUreaplasma urealyticum とは別種であり、本研究でCE群における最高頻度の検出菌種(30.4%)であったにもかかわらずALICEの対象外となっています。Ureaplasma parvumとurealyticum はDNA相同性が高く従来は同一種として扱われてきた経緯がありますが、病原性が異なる可能性が議論されており、パネルへの追加が今後の課題となりえます。加えてStaphylococcus epidermidis・Staphylococcus saprophyticus・Streptococcus pyogenesもALICEには含まれていません。
もちろん、測定系が異なると検出される菌も異なります。今のところ、病原菌の全てを把握できる検査は存在せず、それに近い検査を臨床状態を合わせて把握し治療プランを立てるというのが最善だと考えています。
治療効果の機序
著者らは抗生剤投与後にLactobacillusが有意に増加(5.1%→29.1%)したことを確認しており、菌叢の正常化を伴う抗菌作用が主たる機序と解釈しています。また著者らは内膜生検自体のスクラッチ効果(El-Toukhy et al. Reprod Biomed Online. 2012;25:345-354)の交絡を認めつつも、「抗生剤治療の効果はスクラッチ効果から独立している」と結論しており、抗菌作用が中心的役割を担うという立場と一致します。Host Modulationの関与は本研究からは否定も肯定もできませんが、Lactobacillusの回復という菌叢正常化のデータは抗菌作用主体の機序を支持するものかなと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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