
はじめに
CEに対する抗菌薬治療は妊娠転帰を改善するとされる一方、治療後に再度子宮内膜生検を行い治癒を確認する必要があるかについては議論が残っています。今回、抗菌薬治療後の再生検の有無が生殖補助医療の妊娠転帰に与える影響を検討した大規模後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
CE患者に対するドキシサイクリン治療後、再生検を行わずに胚移植を実施しても妊娠転帰に有意差はなく、治癒確認の省略が可能である可能性が示されました。
引用文献
Liu WJ, et al. Reprod Biomed Online. 2022;45(6):1167-1175. doi: 10.1016/j.rbmo.2022.07.020.
論文内容
CEを有する不妊患者に対する抗菌薬治療後の子宮内膜再生検の必要性、およびCEの改善が妊娠転帰に及ぼす影響を検討することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
2018年3月から2020年1月に中国施設にて子宮鏡検査を受けた不妊患者5365名のうち、CD138免疫組織化学染色による子宮内膜生検を実施し、IVF/ICSIを受けた4003例の胚移植周期を対象としました。子宮腔癒着、粘膜下筋腫、卵管留水症、子宮腺筋症、子宮内膜症III期以上、子宮形態異常、反復着床不全、反復流産、PGTサイクルは除外されました。CE陰性群(Group 1:CD138陽性細胞<5個/HPF、n=2742)とCE陽性群(n=1261)に分類し、CE陽性群はすべてドキシサイクリン(100 mg 1日2回、14日間)による1コースの治療を受けた後、再生検群(Group 2、n=927)と再生検非実施群(Group 3、n=334)に分けられました。さらにGroup 2は、再生検でCE改善群(ICE群:CD138陽性細胞<5個/HPF、n=733)とCE非改善群(NICE群:CD138陽性細胞≧5個/HPF、n=194)に分類されました。各群の平均年齢はGroup 1が32.78±4.59歳、Group 2が32.54±4.50歳、Group 3が32.82±4.74歳であり、群間に有意差はありませんでした(P=0.075)。
結果
ドキシサイクリン1コース後の治癒率は79.07%(733/927)でした。3群間において、年齢、不妊年数、不妊原因、BMI、AMH値、基礎FSH値、基礎エストラジオール値、基礎プロゲステロン値、ゴナドトロピン開始用量、総ゴナドトロピン投与量、採取卵胞数、正常受精率に有意差は認められませんでした。良質胚の平均数はGroup 3がGroup 2より有意に低値でした(P=0.034)。Group 3では新鮮胚移植の割合が他の2群より高く(P<0.001)、分割期胚2個移植の割合がGroup 1およびGroup 2より高く、単一胚盤胞移植(SBT)の割合は低い結果でした(P<0.001)。
①CE陰性群(Group 1)vs 再生検群(Group 2)vs 再生検非実施群(Group 3)の妊娠転帰比較
着床率はGroup 1が45.94%、Group 2が46.27%、Group 3が46.85%(P=0.905)、臨床妊娠率はそれぞれ58.83%、59.87%、59.30%(P=0.853)、出生率は49.09%、47.46%、47.60%(P=0.647)であり、いずれも3群間に有意差を認めませんでした。初期流産率(12.34% vs 14.59% vs 12.63%、P=0.389)、後期流産率(2.79% vs 3.78% vs 3.54%、P=0.470)、異所性妊娠率(1.80% vs 3.06% vs 4.04%、P=0.051)にも有意差はありませんでした。すなわち、抗菌薬治療後に再生検を行わずに胚移植を実施しても、再生検群やCE陰性群と同等の妊娠転帰が得られていました。
②再生検群内の比較:CE改善群(ICE群)vs CE非改善群(NICE群)
CE治癒群(平均年齢32.51±4.41歳)と遷延CE群(平均年齢32.66±4.87歳)の間で、年齢、不妊年数、BMI、AMH値、基礎FSH値、良質胚平均数、移植法(新鮮/凍結)、移植胚の種類および個数に有意差はありませんでした。早期流産率(8.73% vs 8.76%、P=0.989)、後期流産率(1.91% vs 3.61%、P=0.253)、異所性妊娠率(1.91% vs 1.55%、P=0.972)にも有意差はありませんでした。しかし、着床率(47.64% vs 40.95%、P=0.034)、臨床妊娠率(62.07% vs 51.55%、P=0.008)、出生率(50.20% vs 37.11%、P=0.001)は遷延CE群でCE治癒群より有意に低値でした。すなわち、ドキシサイクリン1コースでCEが改善しなかった患者では妊娠転帰が明らかに不良であることが示されました。
③多変量ロジスティック回帰分析(出生率に対する因子)
多変量ロジスティック回帰分析では、出生率に関連する因子として、母体年齢(adjusted OR 0.923、95%CI 0.910–0.936、P<0.001)、良質胚平均数(adjusted OR 1.030、95%CI 1.013–1.048、P=0.001)、胚移植日の子宮内膜厚(adjusted OR 1.082、95%CI 1.049–1.116、P<0.001)が有意でした。SBTを基準とした場合、単一分割期胚移植では出生率が有意に低下し(adjusted OR 0.442、95%CI 0.305–0.641)、胚盤胞2個移植では有意に上昇しました(adjusted OR 1.676、95%CI 1.376–2.041)。一方、CE陰性群を基準とした場合、CE再生検群(adjusted OR 0.895、95%CI 0.767–1.045)およびCE再生検非実施群(adjusted OR 0.968、95%CI 0.763–1.230)のいずれも出生率に有意差を認めませんでした。
私見
本研究の最大の特徴は、CE患者に対する抗菌薬治療後に「再生検を実施して治癒を確認してから移植した群(Group 2)」と「再生検を行わずにそのまま移植した群(Group 3)」を直接比較している点です。CE治療に関する既存のエビデンスは、①抗菌薬投与群 vs 非投与群、②治癒確認後にCE治癒群 vs 遷延群、③CE消失群 vs もともと非CE群、という3パターンの比較が中心であり、「治癒確認の実施そのものに臨床的意義があるのか」を問う比較は極めて限られています。本研究はその意味で臨床的に重要な問いに対する貴重なデータを提供しています。
約8割の患者が1コースで治癒することを考慮すれば、全例に再生検を行うことの費用対効果は必ずしも高くない可能性があります。
一方で、遷延CE群では出生率が37.11%とCE治癒群の50.20%に比べて明らかに低値であり、CE遷延が妊娠転帰に悪影響を及ぼすことは複数の先行研究でも裏付けられています。
実臨床においては、全例に再生検を課す方針と省略する方針のいずれが最適かは、患者背景(反復着床不全の有無、初回CE診断時のCD138密度など)に応じた層別化が求められます。
なお、本研究ではRIF患者および反復流産患者は除外されており、比較的良好な予後が見込まれる不妊患者が対象です。CEの臨床的影響がより顕著に現れるとされるRIF患者集団では、再生検の省略が同様に許容されるかは不明であり解釈は慎重であるべきと考えます。また、各群における移植回数(何回目の移植であったか)の分布は論文中に明示されておらず、移植回数による交絡の影響を完全には排除できません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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