
はじめに
慢性子宮内膜炎(CE)は、子宮内膜の慢性炎症状態であり、大腸菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、マイコプラズマ、ウレアプラズマなどの細菌過剰増殖との関連が報告されています。反復着床不全(RIF)女性での有病率は30-70%とされ、生殖予後に悪影響を及ぼす可能性が示唆されています。しかし、CEに対する抗菌薬治療の有効性を無治療群と直接比較した研究はこれまで存在しませんでした。今回、抗菌薬治療と無治療を比較した初の症例対照研究をご紹介いたします。
ポイント
慢性子宮内膜炎に対する抗菌薬治療は、無治療と比較して累積治癒率が有意に高く(81.25% vs. 6.25%)、CEの感染性本態が示唆されました。
引用文献
Cicinelli E, et al. Fertil Steril. 2021;115(6):1541-1548. doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.018.
論文内容
慢性子宮内膜炎(CE)女性における抗菌薬治療と無治療の治癒率を比較したレトロスペクティブ非同時症例対照研究です。抗菌薬治療を受けた64名(Group A:2017年1月~2019年12月)と、抗菌薬治療を拒否した対照群64名(Group B:2015年1月~2019年12月)を1:1の比率でマッチングしています。CEの診断は、子宮鏡検査、組織学的検査、およびCD138免疫組織化学染色の3つの手法すべてで陽性であることを条件としました。CEの診断および治癒判定に以下の3手法を併用しています。
①子宮鏡検査:子宮腔内を直接観察し、マイクロポリープ、間質浮腫、局所的またはびまん性の充血といったCEに特徴的な肉眼的所見の有無を判定します。
②組織学的検査(H&E染色):子宮内膜生検組織を通常のヘマトキシリン・エオジン染色で観察し、形質細胞(プラズマ細胞)の存在を確認します。しかしH&E染色では形質細胞と他のリンパ球や間質細胞との形態的区別が難しい場合があります。
③CD138免疫組織化学染色:同じ子宮内膜生検組織に対し、形質細胞の表面マーカーであるCD138(シンデカン-1)に特異的な抗体で染色します。形質細胞のみが選択的に標識されるため、H&E染色より客観的かつ高感度に形質細胞を同定できます。
組織学的診断は10HPFあたり1個以上の形質細胞の存在に基づいています。子宮鏡検査はすべて月経周期の卵胞期に実施され、単一の術者が行いました。組織学的および免疫組織化学的検査も単一の病理医が子宮鏡所見を知らされない状態で実施しています。
抗菌薬治療は子宮内膜培養とアンチバイオグラムに基づく起炎菌指向型で実施されました。グラム陰性菌陽性例にはシプロフロキサシン500 mg 1日2回10日間、グラム陽性菌にはアモキシシリン・クラブラン酸1 g 1日2回8日間、マイコプラズマ・ウレアプラズマにはジョサマイシン1 g 1日2回12日間が処方されました。培養陰性例にはセフトリアキソン250 mg筋注単回+ドキシサイクリン100 mg 1日2回14日間+メトロニダゾール500 mg 1日2回14日間が投与されています。Group Aでは抗菌薬投与後の月経周期卵胞期に再度子宮内膜生検を実施し、培養・組織診・CD138免疫染色がすべて陰性化した場合に子宮鏡で確認し、治癒と判定しました。持続例には最大3コースまで治療を反復しています。ベースライン(子宮鏡+生検+培養→CE診断確定)→ 培養結果に基づき抗菌薬1コース → 再評価(子宮鏡+生検+培養+CD138)→ 治癒ならば終了、持続ならば新たな培養結果に基づき2コース目 → 再評価 → 治癒ならば終了、持続ならば3コース目 → 最終再評価
Group Bでは、2月経周期の待機期間後に子宮鏡検査と子宮内膜生検による再評価を1回実施しています。
結果
Group A(治療群)では、1コースの抗菌薬治療後に20例(32.25%)、2コース累積で40例(62.5%)、3コース累積で52例(81.25%)がCE治癒と判定されました。12例(18.75%)は3コース終了後もCE持続でした。Group B(無治療群)では自然治癒は4例(6.25%)のみでした。
CE累積治癒率はGroup A(治療群)がGroup B(無治療群)に比べ有意に高い結果でした(81.25% vs. 6.25%; P<.0001)。1コースの抗菌薬治療後においてもすでに両群間に有意差が認められています(32.25% vs. 6.25%; P=.02)。
1コース後および2コース後の評価では、直前の評価時点と比較して3手法いずれでもCE陽性例が有意に減少しました。しかし2コース後から3コース後にかけては、CD138免疫染色およびH&E組織診では統計学的に有意な追加減少が認められなくなりました(2コースまでに組織学的治癒が得られる症例の大半が治癒に至っていたことを意味します)。一方、子宮鏡検査ではなお陽性と判定される症例が多く残存しており、全評価を通じて子宮鏡でのCE陽性例数はH&E組織診やCD138免疫染色の陽性例数より有意に多く、特に3コース後では子宮鏡陽性例がCD138陽性例の3.1倍に達しました。これは、子宮鏡で認められる充血やマイクロポリープといった肉眼的所見が、必ずしも形質細胞浸潤を伴う真の炎症を反映しているとは限らず、子宮鏡検査の主観性による過剰診断の可能性を示唆しています。
私見
本研究は、CEに対する抗菌薬治療の有効性を無治療群と直接比較した初めての報告です。
無治療での自然治癒はほぼ期待できない
CEの一部は微生物が子宮内膜間質に定着し、慢性的な炎症を引き起こす病態と考えられています。健常な子宮内膜は免疫防御機構によって微生物の排除が可能ですが、一度慢性炎症が確立すると、形質細胞を中心とするリンパ球浸潤が持続し、局所免疫環境が変化した状態が維持されるため、自然治癒が極めて困難となります。本研究では無治療群にも2月経周期の待機期間が設けられていますが、ほとんどの症例で月経による内膜脱落・再生を経ても炎症が消退しなかったことは、CEの感染性本態を強く支持する所見です。著者らは、非感染性CEの存在の可能性を認めつつも(Drizi A, et al. Menopause Rev. 2020)、少なくとも本研究集団においては感染性起源が圧倒的に優位であり、抗菌薬による初期治療アプローチが正当化されると結論づけています。
起炎菌指向型治療で奏功したことについて
ドキシサイクリン自身はhost modulation効果もありますので、CEが治癒するのはこちらも否定できないかなと思っていました。しかし、今回の細菌培養から抗生剤投与をして改善傾向にあるため、host modulation効果より抗菌薬効果なのかなと思っています。ただ、周期ごとの治癒率が低いことは気にしなくてはいけません。治癒判定が厳しいのが理由なのかなと感じています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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