治療予後・その他

2025.01.11

男性癌患者の生殖機能温存の治療成績アップデート

成人男性がん患者における妊孕性温存:系統的レビューおよびメタアナリシス

Fertility preservation in adult male patients with cancer: a systematic review and meta-analysis.

Li Q, 他. Hum Reprod Open. 2024 Jan 30;2024(1):hoae006. doi: 10.1093/hropen/hoae006. PMID: 38389980.

一つ前のガイドラインですが、『小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』2017年版では、以下のように記載されています:「男性がん患者から採取された凍結精子の成績に関しては,30 報・11,798 症例のシステマティック・レビュー*)が報告されている。この報告では,精子利用率は8%(95% CI:8-9%)と低く,利用された精子による生児獲得率は49%(95% CI:44-53%)だった。精子凍結を施行した患者の中で生児を獲得した者は非常に少なかったが,破棄率が16%(95% CI:15-17%)と低く,観察期間と利用率に有意な正の相関があることから,利用率は今後高くなっていく可能性も指摘されている。」。このレビューは2000年1月からJuly 2015年7月までのデータを引用していました。
今回ご紹介するのは、新たな解析で、凍結精子の成績に関して2021年12月までのデータを含んでいて、研究の数も対象の症例数もかなり増えています。はたして精子利用率は増えているのでしょうか?ちなみに上記のガイドラインの最新版では、精子利用率は10-20%と記載しています(引用文献によってばらつきがあるようです)。
* Ferrari S, et al. Sperm cryopreservation and reproductive outcome in male cancer patients: a systematic review. Reprod Biomed Online. 2016 Jul;33(1):29-38. doi: 10.1016/j.rbmo.2016.04.002. PMID: 27156003.

研究の紹介

この研究で解明しようとしていることは、以下のものです:
精子凍結保存は成人男性がん患者の生殖機能(妊孕性)を温存するために実行可能で効果的な方法でしょうか?

これまでに分かっていること

精子の凍結保存は、男性の生殖機能を守るための唯一の効果的な方法です。この方法は、生殖補助医療(ART)の中でも重要な手段です。最近では、がん治療の進歩に伴い、がん患者における精子凍結保存の成果についての研究が増えています。

研究のデザインや規模、期間

2021年12月31日までに発表された関連研究を対象に、データベースで広範な文献検索を行いました。 使用したデータベースは、CENTRAL、CNKI、Cochrane Systematic Reviews 、EMBASE、MEDLINE、PUBMED、Web of Scienceでした。使用した検索単語は、「cryopreservation または freeze または freezing または banking または cryostorage または storage) および(sperm または semen または spermatozoon) および(cancer またはtumor またはmalignancy またはneoplasm)」です。

対象と方法

がん治療によって生殖機能が低下する可能性がある男性を対象に、治療前または治療中に精子の凍結保存を行った、または試みたすべての研究を対象としました。

主な結果

このメタアナリシスには69件の非ランダム化研究が含まれており、32,234人のがん患者が精液検査を受け、23,178人のがん患者が少なくとも1回の精子凍結保存を行いました。凍結保存に失敗した割合は10%(95%信頼区間:8~12%)で、精子が廃棄された割合は23%(95%信頼区間:16~30%)、精子が使用された割合は9%(95%信頼区間:8~10%)でした。妊娠率、流産率、出産率はそれぞれ28%(95%信頼区間:22-33%)、13%(95%信頼区間:10-17%)、20%(95%信頼区間:15-25%)でした。
サブグループ解析では、10年前の研究と比べて、最近の研究では妊娠率と出産率が高く、凍結保存の失敗率が低いことがわかりました。また、アジアで行われた研究では、他の大陸の研究と比べて精子の廃棄率が高く、妊娠率も高いという結果が報告されています。
さらに、顕微授精、体外受精、人工授精(IUI)での1回の治療あたりの妊娠率はそれぞれ34%(27~41%)、24%(14~35%)、9%(5~15%)でした。一方、1回の治療あたりの出産率は、それぞれ23%(17~30%)、18%(11~26%)、5%(1~9%)でした。

研究の限界と注意すべき点
すべてのメタアナリシスと同様に、この研究にもいくつかの限界があります。主な限界の一つは、データが36年間にわたって収集されていることです。この期間中に、世界保健機関(WHO)が精液検査所見の基準値を変更するなど、重要な変更がありました。また、がんの種類と精液所見との関係を調べていないことも問題です。先行研究の多くはサンプルサイズが小さく、対照群がないため、結果を解釈する際に限界がありました。さらに、ほとんどの研究では、病気の重症度が結果に与える影響を考慮していませんでした。そのため、より正確な結論を得るためには、がんの種類や特にその重症度が精液所見に与える影響を評価する必要があります。
同様に、多くの研究が異なる種類のがんを持つ患者を区別せずに、すべてのがん患者に共通する結論を導いている点も問題です。この解析では、患者の病気に関する詳しい情報が不足しており、さまざまながんを持つ患者について詳しく調べるために多くの努力がされましたが、その結果が偏った影響を受けている可能性があることを認める必要があります。 さらに、患者ひとりひとりのデータを使わず、各研究で得られた平均的な結果を使ったことも、偏りが生じる原因になったかもしれません。

調査結果の広い意味

精子凍結保存は、男性の生殖機能を守るために有効な方法であり、がん患者にとって役立つ可能性があります。観察された凍結精子の利用率9%は、実際の利用率を低く見積もっているかもしれません。その理由として、追跡期間が短いため、若いがんサバイバーの凍結精子の利用についての十分なデータが得られていないことが挙げられます。
また、ART(補助生殖技術)は、生殖機能の温存や妊娠を達成するために重要な役割を果たしています。このメタアナリシスでは、がん患者において妊孕性温存を受けた場合、顕微授精が体外受精や人工授精(IUI)よりも良い結果をもたらすことが示されています。

研究の結果のまとめ

精子の凍結保存は、効果的な生殖能力の保存方法であり、がん患者にとって有益な選択肢となる可能性があります。

筆者の意見

以前の解析に比べてデータ量が大幅に増えていて、より信頼性が増していると思います。精子利用率は大きな変化はありませんでした。我が国のガイドラインでは利用率向上を期待していましたが、日本独自の妊孕性温存についての研究が進んでおりデータが蓄積してくればもっと正確なデータが出てくると思われます。
本研究のサブグループ解析では、10年前の研究と比べて、最近の研究では妊娠率と出産率が高く、凍結保存の失敗率が低い、とされていますが、これは生殖医療の進歩や、妊孕性温存治療についての認識が広まってきていることも良い影響を及ぼしているのだと考えています。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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