
はじめに
子宮内膜ポリープは不妊女性に頻度高く認められる子宮内病変であり、局所炎症の誘導、サイトカイン発現変化、子宮内膜受容能の障害などを介して着床を阻害する可能性があります。子宮鏡下ポリープ切除術は標準治療ですが、従来の電気切除術には基底層への熱傷害、盲目的掻爬術には不完全切除などの懸念がありました。近年は、熱傷害を伴わずに直視下で病変を機械的に切除できる子宮鏡下組織除去システム(hysteroscopic tissue removal system;HTRS、MyoSureやTruClearなど)が普及しつつあります。今回、亀田IVFクリニック幕張からHTRSによるポリープ切除術後3回までの胚移植(ET)における累積妊娠予後と規定因子を評価した単施設後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
HTRSによる子宮内膜ポリープ切除術後3回までのETで累積臨床妊娠率 79.0%、累積出生率 65.0%と良好でしたが、母体年齢が累積・周期別の妊娠成績ともに一貫した規定因子でした。
引用文献
Yurie Nako, et al. Diagnostics. 2025. doi: 10.3390
論文内容
不妊女性において、HTRSを用いた子宮鏡下子宮内膜ポリープ切除術後の3回までのET周期における累積妊娠成績を記述し、累積および周期別妊娠の規定因子を同定することを目的とした単施設後方視的コホート研究です。
2023年1月から2024年12月の間に亀田IVFクリニック幕張においてHTRSによる子宮内膜ポリープ切除術を受けた不妊女性のうち、術後に少なくとも1回のETを開始した症例を対象としました。患者はET1からET3まで追跡され、主要評価項目は3回までのET内における累積臨床妊娠率(cumulative clinical pregnancy rate;CCPR)です。実測累積解析では治療中断例を非妊娠として扱い、Kaplan-Meier(KM)解析では治療中断を打ち切りとして累積妊娠確率を推定しました。患者レベルおよび周期レベルの予測因子の同定には、多変量ロジスティック回帰および一般化推定方程式(GEE)を用いました。胚はVeeck基準(分割期胚)またはGardner基準(胚盤胞)で評価し、AA・AB・BAを良好胚盤胞と定義しました。CEスコア2以上の症例にはET前に抗菌薬が投与され、PGT-Aは実施していません。
結果
適格性が評価された121例のうち21例が除外され、ET1を開始した100例が一次解析に組み入れられました。100例中79例が3回までのETで臨床妊娠に至り、CCPRは79.0%、ET3時点でのKM推定値は87.4%、累積出生率(CLBR)は65.0%でした。年齢階層別のCCPRは34歳以下91.9%、35-39歳78.3%、40歳以上52.9%と加齢に伴い低下しました。13例(13.0%)が妊娠前に治療を中断し、中断率も加齢とともに増加し(34歳以下5.4%、35-39歳10.9%、40歳以上35.3%、p=0.008)、中断理由の多くは移植胚がなくなったことでした。実測CCPRとKM推定値の差は加齢とともに拡大しました(34歳以下+2.0%、35-39歳+7.1%、40歳以上+20.2%)。Cox比例ハザード解析では、34歳以下を基準として35-39歳(HR 0.585、95%CI 0.360-0.949、p=0.030)および40歳以上(HR 0.443、95%CI 0.211-0.929、p=0.031)が有意に低い妊娠到達確率を示しました。患者レベルの多変量ロジスティック回帰では、女性年齢(OR 0.62、95%CI 0.49-0.80、p<0.001)と子宮内膜症(OR 0.07、95%CI 0.01-0.45、p=0.004)が累積妊娠の独立した負の予測因子でした。
一方、術前ポリープ数は単発例と比較して2-4個(OR 8.79、95%CI 1.18-65.56、p=0.034)および5個以上(OR 18.02、95%CI 2.64-123.02、p=0.003)で累積妊娠オッズが有意に高くなりましたが、CIは幅広く、解釈には注意を要します。BMI、CEスコア、男性不妊は調整後に独立した関連を示しませんでした。周期レベルGEE解析(全162周期)では、年齢(OR 0.84、95%CI 0.76-0.94、p=0.002)と胚盤胞移植(分割期胚と比較してOR 9.13、95%CI 1.27-65.87、p=0.028)が周期あたり妊娠と独立に関連し、移植胚数や子宮内膜厚は有意な関連を示しませんでした。胚盤胞移植周期に限定した感度分析でも年齢効果は維持されました(OR 0.86、95%CI 0.78-0.95、p=0.004)。
臨床妊娠到達例における出生率は34歳以下94.1%、35-39歳77.8%、40歳以上55.6%、流産率は40歳以上で44.4%まで上昇しました。胚盤胞到達率や良好胚盤胞含有周期割合は年齢階層間で有意差がなく(それぞれp=0.091、p=0.766)、AMHは加齢に伴い有意に低下しました(p=0.024)。
探索的サブグループ解析として、術前ETが不成功であった30例における術前99周期のETでは妊娠例がなかったのに対し、術後は21/30例(70.0%)が妊娠に至りましたが、対照を欠いた観察として仮説生成的に扱われています。
私見
当院では、KARL STORZ社の細径子宮鏡であるCAMPO TROPHYSCOPE®およびBETTOCCHI® hysteroscopeを用いた低侵襲な子宮鏡手術から、Hologic社のMyoSure® Tissue Removal System、Medtronic社のTruClear™ Hysteroscopic Tissue Removal Systemを用いたシェーバータイプの子宮鏡下組織除去術まで幅広く実施しています。年間150件以上の子宮鏡手術を行っており、子宮内膜ポリープや子宮内病変に対して、病変の大きさ・部位・数に応じた術式選択を行っています。
当院、名古医師が中心となり、見学・指導なども行っています。
今回の報告は当院(亀田IVFクリニック幕張)からの単施設後方視的コホート研究です。
子宮内膜ポリープと不妊・着床予後の関連については、HTRSと従来型レゼクトスコープのIVF妊娠予後を比較したWang, et al. BMC Surg. 2025では両群に有意差を認めておらず、術式間の優越性については未だ結論が出ていません。本研究はあくまで切除術後のET予後の記述であり、HTRSの他術式に対する優位性を示すものではない点には留意すべきです。
術前ET不成功であった30例で術前妊娠0/99から術後妊娠21/30例(70.0%)に改善した所見は印象的ですが、解釈には複数の注意が必要です。まず、対照群がないため試行回数を重ねたことによる累積効果と切除の効果を区別できません。次に、極端に予後の悪い集団を抽出すると介入の有無にかかわらず次期観察で平均的な結果に戻る平均への回帰(regression to the mean)の影響が排除できません。さらに、術前後で胚質、培養条件、移植プロトコルなどが変化している可能性も否定できず、本所見はあくまで仮説生成的な観察にとどまります。
術前ポリープ数が多い症例ほどCCPRが高かった所見は一見直感に反しますが、外科的に修正可能な子宮内病変の負荷が大きい症例ほど切除による恩恵が大きい可能性が論文内では考察されています。ただしCIが幅広く単発ポリープ群が小サンプルであるため、仮説生成的な観察にとどまります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。