プレコンセプションケア

2025.02.22

妊活中の男性は、甘い飲み物の摂取に注意が必要です

研究の紹介

砂糖入り飲料の摂取と精液の質に関する妊娠前コホート研究
A preconception cohort study of sugar-sweetened beverage consumption and semen quality.
Joseph MD, et al. Andrology. 2024 Nov;12(8):1730-1739. doi: 10.1111/andr.13615. PMID: 38450974.

妊活中の男性の精液所見に悪影響をあたえるものに、砂糖入り飲料があります。「男性の生殖機能における食事パターン、食品、栄養素:観察研究の系統的レビュー」の研究で紹介した中にも含まれていました。今回にはこの項目に特化した最近の研究のご紹介です。
現代では、いつでも甘い飲み物は飲もうと思えば飲めるので、ついつい飲んでしまいますが、気をつけましょう。

研究の要約

背景

食事要因、特に高糖分の摂取は、男性の生殖機能に悪影響を及ぼす可能性があります。糖分を含む飲料(sugar-sweetened beverage, SSB)の摂取と精液の質との関連を調査した研究では、結果に一貫性がありません。

目的

北米のプレコンセプション期(妊娠準備中)の男女を対象としたコホート研究において、SSBの摂取が精液の質に及ぼす影響を評価しました。

方法

2015年から2022年にかけて実施された「Pregnancy Study Online(PRESTO)」に参加した690名の男性(1,247の精液サンプル)についてのデータを分析しました。21歳以上の参加者について、炭酸飲料、エナジードリンク、スポーツドリンク、フルーツジュースを含む糖分を含む飲料(SSB)の摂取状況に関する質問票に回答してもらいました。
登録後、米国の参加者には精液検査を依頼し、自宅用精液検査キットを使用して2つの精液サンプルを収集・分析しました。
線形回帰モデルを用いて、SSB摂取量と精液量、精子濃度、総精子数(total sperm count, TSC)、運動率、および総運動精子数(total motile sperm count, TMSC)との関連について調整済みの百分率差(%D)および95%信頼区間(confidence intervals, CI)を推定しました。また、修正ポアソン回帰モデルを使用し、SSB摂取量と世界保健機関(WHO)の精液パラメータ基準値との関連について、調整済みリスク比(RR)および95%CIを算出しました。

結果

SSBを摂取しない人と比較して、週に7回以上SSBを摂取する人は、以下の精液指標が低い傾向にありました。
– 精液量: %D = -6(95% CI: -13, 0)
– 精子濃度: %D = -22(95% CI: -38, 0)
– 総精子数(TSC): %D = -22(95% CI: -38, -2)
– 運動率: %D = -4(95% CI: -10, 2)
– 総運動精子数(TMSC): %D = -25(95% CI: -43, -2)
また、高頻度でSSBを摂取する人は、以下のリスクが高くなっていました。
– 精子濃度低下(≤1600万/mL): RR = 1.89(95% CI: 1.11, 3.21)
– 総精子数低下(≤3900万): RR = 1.75(95% CI: 0.92, 3.33)
– 運動率低下(≤42%): RR = 1.23(95% CI: 0.87, 1.75)
– 総運動精子数低下(≤2100万): RR = 1.95(95% CI: 1.12, 3.38)
これらの関連は、Body Mass index (BMI)25 kg/m²以上の参加者でより顕著でした。

結論

北米の妊娠準備中の男性を対象としたコホート研究において、SSBの多量摂取は精液の質の低下と関連していることが示されました。

筆者の意見

甘い飲み物の摂取にはあまり注意を払っていませんでした。自動販売機で1日1本買って飲んでいる方も、少なくないのではないでしょうか。
この研究によると、糖分を含む飲料(SSB)を飲まない方は660名中298名(約45%)、週1本飲む方が97名(約15%)、週2〜6本飲む方が181名(約27%)であり、週7本以上飲む方(毎日飲む方)は114名(約16.5%)と、決して少ない割合ではありません。
特に注目すべき点は、SSBの影響がBMIが高い男性ほど大きいことです。SSBの摂取量が1日1杯増えるごとに、TMSC(総運動精子数)は12%減少しました(95% CI: −22, −1)。一方で、BMIが25 kg/m²未満の男性では、この関連はほとんど見られませんでした(%D = −1、95% CI: −20, 23)。つまり、肥満傾向のある方ほど注意が必要ということになります。
一方で、スポーツドリンクの摂取は精液の質との関連がほとんど見られませんでした。この論文ではスポーツドリンクについての詳しい考察はありませんでしたが、運動中に飲む場合には特に問題がない可能性も考えられます。
ソーダや甘い飲み物は美味しく、ときどき飲みたくなるものですが、できるだけ甘くない飲み物に置き換えてみるのはいかがでしょうか?

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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