
はじめに
多毛症は思春期以降の女性において男性型の終末毛が過剰に発育する状態で、閉経前女性の5〜15%に認められる比較的頻度の高い症候です。多毛症は高アンドロゲン血症の臨床的指標であり、最も多い原因は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)ですが、特発性多毛症(IH)、特発性高アンドロゲン血症(IHA)、非古典型先天性副腎過形成(NCAH)など類似する病態も鑑別が必要となります。今回、ポルトガル人多毛症女性564例を対象とした横断研究において、これら4疾患の有病率とアンドロゲン・ゴナドトロピン・BMIの比較を行った報告をご紹介いたします。
ポイント
ポルトガル人多毛症女性ではPCOSが56.2%で最多、肥満との関連はPCOSに特異的であり、NCAHとPCOSの鑑別には17-OHPが極めて有用でした。
引用文献
Pinto J, et al. J Clin Med. 2025 Jan 21;14(3):673. doi: 10.3390/jcm14030673.
論文内容
多毛症を主訴に紹介された大規模ポルトガル人女性コホートにおいて、PCOS・NCAH・IHA・IHの有病率を推定し、アンドロゲン値・ゴナドトロピン値・BMIを対照群と比較することを目的とした横断研究です。
2010年から2022年までにポルトガル・ポルト大学病院内分泌外来を受診した600例のうち、16歳以降に発症した臨床的多毛症を有する女性を対象としました。経口避妊薬・ホルモン療法使用例、閉経例、甲状腺疾患・高プロラクチン血症・Cushing症候群・卵巣/副腎腫瘍を有する例は除外されました。対照群は年齢が同程度で多毛・月経異常・多嚢胞性卵巣形態(PCOM)のない女性から募集されました。修正Ferriman-Gallwey(mFG)スコア、総テストステロン(TT)、遊離テストステロン(FT)、アンドロステンジオン(A4)、デヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEAS)、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、LH、FSH、LH/FSH比、17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)、遊離アンドロゲン指数(FAI)、BMIを評価しました。17-OHPが10 ng/mL未満の症例ではSynacthen試験を行い、陽性の場合はCYP21A2の遺伝子検査を実施しました。診断基準はPCOSがRotterdam基準に準じ、NCAHは17-OHPがtetracosactide刺激後10 ng/mL以上、IHAは正常排卵周期かつPCOMなしで男性ホルモン高値、IHはmFGスコア8以上で男性ホルモン正常・月経正常・PCOMなしと定義されました。Kruskal-Wallis検定とDwass-Steel-Critchlow-Fligner検定(Bonferroni補正)、Spearman順位相関、ROC解析を用いて統計解析を行いました。
結果
564例が解析対象となり、対照群を除いた多毛関連症候群の患者514例における有病率はPCOS 56.2%、IH 20.2%、IHA 17.3%、NCAH 6.2%でした。患者群はいずれも対照群より有意に若年でした(PCOS・IHA・NCAH:p<0.001、IH:p=0.011)。アンドロゲン関連指標では、PCOSは対照群と比較してmFGスコアおよびDHEASが有意に高値(p<0.001)であり、PCOSとNCAHはIH群および対照群と比較してTT・FT・A4・FAIがいずれも有意に高値(p<0.001)でした。SHBGはPCOS群でIH群(p=0.003)および対照群(p<0.001)より有意に低値を示しました。NCAH群はPCOS群と比較してTT(p=0.020)およびA4(p=0.009)がより高値を示しました。IHA群はIH群および対照群と比較してTT・FT・A4・DHEAS・FAIがいずれも有意に高値(p<0.001)でした。17-OHPはNCAH群でPCOS・IHA・IH・対照群すべてに対して有意に高値(p<0.001)であり、ROC解析でNCAH-PCOS鑑別における17-OHPのAUCは0.941(excellent)、NCAH-IHA鑑別では0.932(excellent)と優れた弁別能を示しました。LHおよびLH/FSH比はPCOS群が他の全群より有意に高値(p<0.001)であり、視床下部-下垂体-卵巣軸の機能異常が示唆されました。BMIに関しては、PCOS群のみが対照群より有意に高値(p=0.003)を示し、肥満(BMI≥30)の割合もPCOS群で34.5%と最も高値でした(NCAH 6.5%、IHA 25.0%、IH 16.5%、対照14.3%)。PCOS肥満群はPCOS標準体重群と比較してmFG・FT・FAIが有意に高値、SHBGが有意に低値(いずれもp<0.001)でした。
私見
NCAHについては、本研究では6.2%と報告されており、Carmina E, et al.(J Clin Endocrinol Metab. 2006)の3〜5%とほぼ整合的です。NCAHはPCOSと臨床像が酷似することが知られており(Pall M, et al. Fertil Steril. 2010)、本研究でもmFGスコアやFAIに有意差が認められず、17-OHPのみが両者を鑑別する有用な指標であることが改めて確認されました(AUC 0.941)。
肥満とPCOSの関連については、Lim SS, et al.(Hum Reprod Update. 2012)のメタアナリシスで肥満女性は非肥満女性に比べPCOSオッズが2.77倍高いと報告されており、本研究でもPCOSのみが対照群と比較してBMI高値を示した点は整合的です。SHBG低下とインスリン抵抗性・腹部肥満の関連はBourebaba N, et al.(Biomed Pharmacother. 2022)、Qu X, et al.(Int J Mol Sci. 2020)でも繰り返し示されており、PCOS肥満群でmFG・FT・FAIが上昇しSHBGが低下した本研究の結果と一致します。
IHAについては、本研究で副腎由来アンドロゲン(DHEAS、A4)の高値が顕著であり、Carmina E, et al.(J Endocrinol Investig. 2007)でもIHA症例の48.3%でDHEAS高値が報告されている点と整合します。IHAは正常排卵周期を維持する点でPCOSと異なり、不妊原因とはなりにくいと考えられますが、長期的な代謝・心血管リスクの観点から鑑別は重要と考えます。
NCAH群のFSHが対照群と比較して有意に低値であったことが報告されています(p=0.031, uncorrected)。PCOS:5.70(±2.00)、NCAH:4.95(±2.10)、IHA:5.70(±2.59)、IH:5.80(±2.44)、対照群:6.30(±1.92)と、NCAH群が最も低いFSH値を示していますが、対照群との比較のみが統計学的有意差に達しており、他の患者群間に有意差はありませんでした。
BMIを共変量としたQuade検定では、FSHに対するBMIの効果はp=0.031と有意でしたが、群間比較ではすべての患者群が対照群と比較してのみ有意差を示し(p>0.05)、患者群同士の比較では有意差が認められませんでした。
NCAH群においてはmFGスコアとFSHの間に中等度の正相関が認められました(rho(29)=0.43, p=0.016)。これはNCAHにおいて多毛症の重症度とFSH値が連動して変動する可能性を示唆しています。PCOS群ではmFGとFSHの間に弱い負の相関が認められました(rho(278)=−0.19, p=0.001)。FSH低値そのものについて独立した視床下部GnRHパルスの異常な亢進に伴うLH合成の選択的促進が要因として説明されており(Liao B, et al. Front Endocrinol. 2021)、相対的にFSHが抑制された状態が反映されていると解釈できます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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