
はじめに
ガラス化法は卵子・受精胚の標準的凍結法として確立していますが、冷却前の平衡時間(5〜15分)は経験的に定められたまま長年ほぼ変わっていません。平衡時間が長いと操作時間や凍結保護剤への曝露が延び、毒性・浸透圧ストレスの懸念があります。近年、平衡時間を大幅に短縮しても生存性が保たれる可能性が示されてきました。しかし受精胚(接合子・初期胚・胚盤胞)における平衡時間短縮の臨床的エビデンスは乏しいです。今回、ヒトの3PN接合子・初期胚・胚盤胞を用い、平衡時間短縮ガラス化法の発生段階横断的な安全性を検討した概念実証研究をご紹介します。
ポイント
平衡時間を大幅に短縮したガラス化法は、接合子・初期胚・胚盤胞のいずれでも融解後生存率・初期発生・胚盤胞再拡張を標準法と同等に保てる可能性があります。
引用文献
Doolman N, et al. Hum Reprod Open. 2026. doi: 10.1093/hropen/hoag053
論文内容
平衡時間を短縮したガラス化法が、主要な胚評価指標を損なわずにヒト胚へ安全に適用できるかを検討することを目的とした、単一施設(Sheba Medical Center)における前向き概念実証研究です。2025年4月から2026年3月にかけて、57名由来の3PN胚102個、29名初期胚49個、13名胚盤胞45個を対象としました。検体ごとに凍結のタイミングが異なり、3PN胚は受精確認直後に、初期胚は3PN由来胚をday2〜3に、いずれも初回ガラス化を行いました。胚盤胞はすべて単一遺伝子疾患のPGT-M胚で研究専用とし一度融解し、再ガラス化を行いました。
コンピューターによる無作為割付を行い、標準ガラス化法と、全量法(300 µl)またはマイクロドロップ法(50 µl)を用いた平衡時間短縮ガラス化法に割り付けました。短縮法は容量と曝露時間がともに群間で異なり、群名の「2分/3分」は平衡時間ではなく冷却前の総曝露時間(平衡+ガラス化液約60秒)を指します。具体的には、短縮・全量は300 µl・平衡1分(総2分)、短縮・マイクロドロップは50 µl・平衡1分(総2分)または平衡2分(総3分)です。標準法は平衡10分で、ドロップ容量は論文に明記されていません。標準法のキットはSage(CooperSurgical)またはKitazatoの2系統が併用され、短縮法と全融解操作はKitazato単独で行われました。両系とも凍結保護剤組成は同等(平衡液:EG 7.5%+DMSO 7.5%、ガラス化液:各約15%+スクロース)です。融解はすべてone-step warmingで統一しました。評価項目は生存率、day-3発生、胚盤胞到達率、iDAScore(形態動態評価)、融解後再拡張です。
結果
評価項目は、すべての発生段階・すべての群で標準法と短縮法の間に統計学的有意差を認めませんでした。各段階の成績は以下のとおりです。
| 段階 | 項目 | 標準法 | 短縮300µl/2分 | 短縮50µl/2分 | 短縮50µl/3分 | p値 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 3PN胚 | 生存率 | 93.3% | 89.5% | 100% | 89.2% | 0.408 |
| 3PN胚 | day-3良好〜中等度胚 | 57.1% | 47% | 60% | 56% | 0.868 |
| 3PN胚 | 胚盤胞到達率 | 32.1% | 41.2% | 32% | 36% | 0.920 |
| 3PN胚 | iDAScore | 4.07 | 2.25 | 3.05 | 3.31 | 0.281 |
| 初期胚 | 生存率 | 85.7% | 78.6% | 95.2% | — | 0.325 |
| 初期胚 | 胚盤胞到達率 | 25% | 36.3% | 55% | — | 0.262 |
| 胚盤胞 | 生存率 | 93.3% | 93.3% | 100% | — | 0.592 |
| 胚盤胞 | 再拡張2h(2回目融解後) | 82% | 84% | 85% | — | 0.784 |
3PN胚では生存率89.2〜100%、胚盤胞到達率32.0〜41.2%、iDAScore 2.25〜4.07といずれも群間同等でした。初期胚では生存率78.6〜95.2%、胚盤胞到達率は標準25%に対し短縮マイクロドロップ55%と数値差は大きいものの有意差はありませんでした。胚盤胞では生存率93.3〜100%、再拡張は1回目融解後82〜90%(p=0.156)、再ガラス化後の2回目融解後82〜85%(p=0.784)、完全再拡張までの時間は3.6〜4.0時間(p=0.893)でした。
私見
本研究は、平衡時間短縮ガラス化法を接合子・初期胚・胚盤胞という複数の発生段階で同一枠組みで検証した点に新規性があります。
短縮を支持する根拠として、ヒト卵子で大幅な平衡短縮とone-step warmingの併用が高い融解後生存を保ったとする報告(Schiewe MC, et al. Reprod Biomed Online. 2024/Wozniak K, et al. Reprod Biomed Online. 2024)、卵子・接合子が標準凍結保護剤への2分曝露で超急速ガラス化に十分な細胞内条件に達するとした計算モデル(Gallardo M, et al. Sci Rep. 2019)、マウス卵子で超急速法がミトコンドリア・小胞体構造を保持したとする基礎研究(Cho JR, et al. Int J Mol Sci. 2024)が挙げられ、本研究はこれらを胚段階へ拡張したものと位置づけられます。
ただ、まだまだ臨床応用には抵抗があります。国内での複数クリニック成績をみながら平衡時間短縮ガラス化法、one-step warmingを検討していきたいと思います。2026年6月現在では導入予定はありません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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