体外受精

2026.08.26

凍結融解胚移植の内膜調整:トリガー修正自然周期 vs 自然周期(Fertil Steril. 2026)

はじめに

近年、ホルモン調整周期での凍結融解胚移植では黄体が欠如するため妊娠高血圧性疾患リスクが上昇する可能性が示され、自然周期(NC)への移行が進んでいます。しかしNCは排卵時期の頻回モニタリングを要するため、hCGやGnRHアゴニストで排卵を誘起する修正自然周期(mNC)が提案されました。今回、NCとmNCの妊娠予後を比較したRCTのメタアナリシスをご紹介します。

ポイント

最良のエビデンスに基づくと、凍結融解胚移植における修正自然周期は自然周期と同等の出生率をもたらし、スケジュール調整上の現実的な選択肢となります。

引用文献

Venetis C, et al. Fertil Steril. 2026 May;125(5):833-844. doi: 10.1016/j.fertnstert.2026.02.021.

論文内容

FETを受ける女性において、mNCとNCの間で出生率に差があるかを明らかにすることを目的とした系統的レビューおよびメタアナリシスです。2024年10月までにMEDLINE、Embase、Cochrane CENTRAL、Scopus、Web of Science、ClinicalTrials.govを検索し、適格なRCTを抽出しました。mNCはhCGまたはGnRHアゴニストで排卵を誘起する周期、NCは血清・尿検査や超音波で排卵時期を確認する周期と定義しました。黄体補充(LPS)はmNCの定義要素ではなく、両法とも「黄体補充の有無を問わず(with or without LPS)」として扱われ、片群のみに非対称な黄体補充を行った試験や排卵誘発を用いた試験は除外しました。バイアスリスクはRoB2、信頼性はTRACTチェックリストで評価し、ITT解析に基づきランダム効果モデルまたは固定効果モデルで統合しました。主要評価項目は出生率、副次項目は臨床妊娠・継続妊娠・周期キャンセル・流産です。

結果

2010年から2024年に発表された6件のRCT(n=1,708)が抽出され、うち3件は高バイアスリスクと判定されましたが、TRACTでは全試験が組入れ可能と評価されました。なお組入れ6試験のmNCトリガーはいずれもhCGであり、定義上は許容されていたGnRHアゴニストを用いた試験は含まれませんでした。黄体補充は5試験が両群とも非実施、1試験(Weissman 2011)が両群に腟プロゲステロンを併用と、いずれも両群で対称的でした。
出生率はmNCとNCで有意差を認めませんでした(RR: 0.93, 95% CI: 0.74–1.17; I²=0%, 4試験, n=1,280, 中程度の確実性)。高バイアスリスク2試験を除外した感度分析でも効果量は変わりませんでした(RR: 0.90, 95% CI: 0.32–2.52; I²=0%, 2試験, n=1,060)。継続妊娠率(RR: 0.74, 95% CI: 0.37–1.51; I²=1%, 3試験, n=536, 低い確実性)、臨床妊娠率(RR: 0.86, 95% CI: 0.67–1.10; I²=0%, 4試験, n=648, 低い確実性)にも有意差を認めませんでした。周期キャンセル率(RR: 1.12, 95% CI: 0.75–1.65; I²=16.2%, 5試験, n=1,548, 非常に低い確実性)、流産率(RR: 0.91, 95% CI: 0.33–2.49; I²=0%, 5試験, n=756, 非常に低い確実性)も同様に差を認めませんでした。異所性妊娠は1試験のみの報告で(RR: 0.20, 95% CI: 0.01–4.13)、メタアナリシスは実施できませんでした。
事前計画では「mNCのトリガー基準」によるサブグループ解析も予定されていましたが、データ不足のため実施できず、実際に行えたのは排卵モニタリング法(未報告 vs. 血清モニタリング)・モニタリング開始時期・黄体補充の有無の3軸のみで、いずれも有意な効果修飾は認められませんでした。

私見

本メタアナリシスは、出生率・各種妊娠予後において両法が同等であると結論しています。これは2022年12月までの5件のRCTを含むGhobaraらのCochraneレビュー(Ghobara T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2025)と整合的であり、出生率の総サンプルサイズが約3倍に増加し、効果量の精度が向上した点が本研究の意義といえます。

mNCの利点として最も頻繁に挙げられるのが来院回数の削減ですが、本研究ではこれを正式には評価できていません。主要解析(ITT)では来院回数のデータが完全に欠落しており、各試験内のper protocolデータを統合した補助的解析でmNCのほうが来院回数が少ない傾向が示されたにとどまります(weighted mean difference: −1.2回, 95% CI: −2.3〜−0.1; I²=77.9%, 3試験, n=448)。ただし効果量は1回程度と小さく、95% CIの上限は0をわずかに下回る程度、かつI²=77.9%と試験間の異質性が非常に大きいうえ、ランダム化の利点が損なわれるper protocolデータである点に留意が必要です。臨床的な実感(予定が立てやすく通院が減る)とは整合する方向ですが、本論文のエビデンスとしては「少なくなる可能性が示唆される」段階にとどまり、確定的な結論は今後の前向きデータと費用対効果分析を待つ必要があります。

黄体補充の必要性が両法で異なるかは依然不明であり、今回はあくまでトリガー(HCG)をいれることが成績に影響するかを調査したメタアナリシスと理解していただければ幸いです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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