体外受精

2026.07.29

凍結融解胚盤胞の融解後再拡張不良がART成績に及ぼす影響(J Ovarian Res. 2023)

はじめに

胚盤胞はガラス化保存の過程で凍結保護物質の添加により脱水・収縮し、融解後の再水和によって再拡張します。この収縮・再拡張の過程は細胞ダメージを生じうるため、融解後2〜4時間の培養(recovery culture)を経て評価することが推奨されています。融解後数時間以内に十分な再拡張を示すことは胚盤胞のviabilityを示す指標とされ、再拡張不良の胚盤胞では着床率・妊娠率が低いと報告されてきました。
凍結融解胚盤胞単一移植1,331周期を後方視的に解析し、融解後再拡張不良(shrinkage)がART成績に及ぼす影響と、ガラス化前および融解後の所見を組み合わせた形態学的評価の臨床的有用性を検討した報告をご紹介いたします。

ポイント

凍結融解後の再拡張不良胚盤胞では着床率・継続妊娠率・出生率が有意に低下し、非GQB・35歳以上・day 6以降到達胚で頻度が高くなります。

引用文献

Ito A, et al. J Ovarian Res. 2023 Sep 14;16(1):192. doi: 10.1186/s13048-023-01276-1.

論文内容

目的

凍結融解胚盤胞移植において、融解後の再拡張不良(shrinkage)が着床、臨床妊娠、継続妊娠、および出生率に及ぼす影響を明らかにし、ガラス化前と融解後の双方の所見を考慮したより有効な形態学的評価法を臨床応用するために確立することを目的としました。
国内生殖医療施設において2017年4月から2022年3月に施行された凍結融解胚盤胞単一移植周期を対象とした後方視的観察コホート研究です。除外基準として、複数胚移植周期、ERA®結果に基づく移植周期、PRP療法併用周期、PGT-A実施周期が設定され、最終的に1,331周期(GQB 999周期、非GQB 332周期)が解析対象となりました。内膜調整法は自然周期89周期(6.7%)、ホルモン調整周期1,242周期(93.3%)が混在しており、両群間で内膜調整法の比率に有意差はありませんでした。自然周期では超音波と血液検査で排卵を予測し予測排卵日の5日後に移植、予測排卵日翌日から経腟プロゲステロン製剤を開始しました。ホルモン調整周期では月経3日目から経皮エストロゲンパッチを開始し、内膜が原則8mm以上に達したことを確認後に経腟プロゲステロンを開始、その5日後に移植としました。なお、内膜調整法は調整変数として多変量解析には組み込まれていません。
胚盤胞はDay 5、Day 6、Day 7のいずれかで凍結保存されたものが含まれています。Day 5に少なくとも初期胚盤胞に到達した胚は凍結され、到達しなかった胚は最長Day 7まで毎日観察し、初期胚盤胞に到達した時点で凍結されました。Day 5/6/7各々の周期数の内訳は明示されていませんが、多変量解析では「day 6以降到達胚」が独立した負の予測因子として同定されています。なお、変性胚や部分的生存胚の取り扱いに関する明示的な除外基準は論文中に記載されていません。
胚盤胞はGardner & Schoolcraftの分類に基づき胚盤腔拡張度、ICM、TEで評価し、3BB以上(3/4/5AA、AB、BA、BB)をGQBと定義しました。ガラス化はKitazato社のVT507を用い、平衡化液中で10〜14分間室温で処理した後、ガラス化液中で1分以内に処理し、Cryotopシートに乗せて液体窒素中で保存しました。融解はVT508キットを用い、37℃の融解液で1分間処理後、希釈液で3分間、洗浄液で計6分間処理しました。融解後のrecovery培養時間は胚盤腔拡張度により2〜7時間と幅があり、拡張度の低い胚ほど長く培養されました。
Shrinkage評価は2時点で施行されました。1点目は融解後9〜11分の時点で、再拡張率<90%を「9〜11分時点での再拡張不良」と定義しました(全体の19.9%)。2点目は移植直前の時点での評価で、これが本論文の主要な群分けに用いられました。再拡張率は胚面積/透明帯内面積で算出し、90%をカットオフとして90%未満をshrinkage群、90%以上をre-expansion群と定義しました。Additional file 3ではImageJソフトウェアを用いた定量測定の代表例が提示されていますが、ルーチン評価は4名の経験豊富な胚培養士のうち少なくとも2名による倒立顕微鏡下での評価・記録に基づいており、全例での定量測定ではなくセミ定量的な目視判定が用いられた可能性が高いと考えられます。
評価方法として、両群間の着床率、臨床妊娠率、継続妊娠率、出生率を比較し、年齢調整ORを算出しました。さらに胚盤腔拡張度、ICM、TEの各形態学的パラメータごとに成績を比較し、多変量ロジスティック回帰分析により臨床妊娠の予測因子を解析しました。

結果

1,331周期のうち、shrinkage群は205周期(15.4%)、re-expansion群は1,126周期でした。Shrinkage群はre-expansion群と比較して年齢(38.4 vs. 37.0歳、p<0.001)、BMI(22.3 vs. 21.8 kg/m²、p<0.05)が有意に高く、GQB割合は有意に低値でした(51.2% vs. 79.4%、p<0.001)。
全胚盤胞での年齢調整ORは着床率0.31(95%CI 0.22–0.45、p<0.001)、臨床妊娠率0.31(95%CI 0.21–0.47、p<0.001)、継続妊娠率0.35(95%CI 0.21–0.57、p<0.001)、出生率0.35(95%CI 0.21–0.58、p<0.001)で、shrinkage群で有意に低下していました。GQBに限定した年齢調整ORは着床率0.55(95%CI 0.36–0.85)、臨床妊娠率0.49(95%CI 0.30–0.79)、継続妊娠率0.56(95%CI 0.32–0.97)、出生率0.57(95%CI 0.33–0.98)であり、影響は緩やかでした。一方非GQBでは年齢調整ORが着床率0.12(95%CI 0.05–0.30)、臨床妊娠率0.12(95%CI 0.04–0.40)、継続妊娠率0.08(95%CI 0.01–0.55)、出生率0.08(95%CI 0.01–0.55)と極めて低値でした。年齢層別では35歳未満ではOR 0.80〜1.04(いずれも有意差なし)、35歳以上ではOR 0.31〜0.35(いずれもp<0.001)であり、影響は35歳以上で顕著でした。流産率の年齢調整ORは全胚盤胞1.33(95%CI 0.61–2.91)と差を認めませんでした。
形態学的パラメータ別の解析では、re-expansion群においてICM Aで着床率57.7%・出生率31.9%、ICM Cで着床率32.7%・出生率9.6%、TE Aで着床率59.8%・出生率33.1%、TE Cで着床率32.0%・出生率11.3%であったのに対し、shrinkage群ではICM Cで着床率2.8%・出生率0%、TE Cで着床率6.1%・出生率0%と著しく低値でした。
多変量ロジスティック回帰分析では、臨床妊娠の独立した予測因子として年齢(OR 0.901、95%CI 0.871–0.931、p<0.001)、非GQB(OR 0.388、95%CI 0.268–0.561、p<0.001)、day 6以降到達胚(OR 0.363、95%CI 0.187–0.704、p<0.01)、融解後recovery culture後のshrinkage(OR 0.389、95%CI 0.245–0.618、p<0.001)が同定されました。Shrinkage発生確率は非GQBで30.1% vs. GQBで10.5%、35歳以上で17.8% vs. 35歳未満で8.4%、day 6以降到達胚で27.0% vs. day 5到達胚で14.5%と、いずれも前者で有意に高値でした。

私見

融解後再拡張がART成績に関連することは古くから報告されています。Shu Y, et al. Fertil Steril. 2009ではrecovery culture中の急速な再拡張がviabilityの指標となること、Cimadomo D, et al. Hum Reprod. 2018では形態不良胚や7日目胚で再拡張不良が起こりやすいこと(OR 19.54、3.19)、Allen M, et al. J Assist Reprod Genet. 2022では融解後の形態が出生率に関連することが示されており、本研究はこれらと方向性を一致させる結果でした。
著者らは再拡張不良の機序として2つの可能性を考察しています。一つはshrinkageの背景に胚の異数性が関与する可能性で、Huang TT, et al. Reprod Biomed Online. 2019が正倍数性胚盤胞の方が異数性胚盤胞より拡張率が高いこと、Tiegs AW, et al. Hum Reprod. 2019が母体年齢の上昇とday 5→7への胚盤胞到達遅延が正倍数性率の低下と関連すること、Wang A, et al. J Assist Reprod Genet. 2018が胚倍数性とICM・TE・拡張度の関連性を報告しています。
もう一つの可能性は凍結融解による細胞傷害という生理学的変化であり、GQBの再拡張不良は可変的な生理的変化、非GQBの再拡張不良は細胞傷害による普遍的変化を反映する可能性が示唆されています。
流産率に有意差がなかったことは、着床に至ったshrinkage胚は可変的変化に留まっていたことを支持する所見と考えられます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚盤胞

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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