体外受精

2026.08.14

正倍数性凍結融解胚移植における子宮内膜調整法と初期流産の関連(Hum Reprod. 2026)

はじめに

ホルモン調整周期(HRT-FET)は柔軟性とスケジュール調整の容易さから広く用いられてきましたが、内膜調整法をめぐる議論が近年、妊娠高血圧症候群などの周産期合併症リスク上昇に加え、初期流産リスクの上昇との関連も指摘されています。今回、正倍数性胚移植における自然周期FET(NC-FET)とHRT-FETを比較したRCTをご紹介いたします。

ポイント

正倍数性胚を用いたFETにおいて、HRT-FET(腟剤単独)はNC-FET(完全自然)と比較して初期流産率が有意に高く、臨床妊娠率・出生率も低下する可能性があります。

引用文献

Roelens C, et al. Hum Reprod. 2026. doi: 10.1093/humrep/deag060.

論文内容

正倍数性凍結融解胚盤胞移植を受ける患者において、子宮内膜調整法(真の自然周期 vs. ホルモン調整周期)が初期流産率に与える影響を検討することを目的としたRCTです。
ベルギーの大学病院で2019年5月から2024年5月にかけて実施されました。PGT-A単独、またはPGT-MもしくはPGT-SRと併用してTE生検を受けた18~42歳の女性が対象です。BMI 35 kg/m²未満、月経周期24~35日の規則的な周期を有することが組み入れ条件で、最初の3回までのICSI-PGT周期から得られた良好胚盤胞による初回FETのみを対象としました。患者は1:1の割合で、真のNC-FET群(黄体期補充なしの自然排卵周期、LHサージ確認後6日目に移植)またはHRT-FET群(estradiol valerate 2mg×3回/日経口にて内膜≥6.5mm確認後、micronized vaginal progesterone 400mg×2回/日を開始し6日目に移植、妊娠成立時は妊娠8週まで継続後1週間で漸減)に無作為に割り付けられました。サンプルサイズは、施設内データに基づきEPL率がNC-FETで9.9%からHRT-FETで18.4%に上昇することを検出するために各群261例(計522例)と算出されましたが、HRT-FETの周産期安全性に関する懸念から354例登録時点で試験は早期中止されました。主要評価項目は妊娠8週未満のEPL、副次評価項目はCPR、継続妊娠率、LBR、産科的アウトカムです。なお両群とも移植当日のプロゲステロン値は測定されておらず、移植日に基づく個別化黄体期補充は行われていません。

結果

354例が無作為化され(NC-FET:178例、HRT-FET:176例)、ITT解析に組み入れられました。FET開始周期あたりのEPLは、NC-FET群で6.7%、HRT-FET群で14.2%(P=0.022;リスク差 −7.5、95%CI −13.8~−1.1)でした。hCG陽性あたりのEPLは、NC-FET群で9.0%、HRT-FET群で21.6%(P=0.005;リスク差 −12.6、95%CI −21.5~−3.7)でした。hCG陽性率は両群間で有意差を認めませんでした(NC-FET 75.3% vs. HRT-FET 65.9%、P=0.053)。CPRはNC-FET群で有意に高く(72.5% vs. 52.3%、P<0.001)、LBRもNC-FET群で有意に高い結果でした(67.4% vs. 47.2%、P<0.001)。PP解析(n=328)でも同様の傾向が確認され、開始周期あたりのEPLはNC-FET 7.1% vs. HRT-FET 15.7%(P=0.014)、CPRは75.7% vs. 57.9%(P<0.001)、LBRは70.4% vs. 52.2%(P<0.001)でした。プロゲステロン投与開始前(移植予定日設定時)のプロゲステロン値はNC-FET群(0.9±1.9)でHRT-FET群(0.2±0.2)より有意に高値でした(P<0.001)が、これは自然周期での排卵後上昇を反映したもので、移植当日値ではありません。在胎週数、分娩様式、出生体重、妊娠高血圧症候群の発生率について両群間に有意差を認めませんでしたが、副次評価項目を検出する検出力は不十分でした。

私見

先行研究では結果が分かれており、2025年のCochraneレビュー(Ghobara T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2025)では生殖アウトカムに有意差はないとされる一方、Vinsonneauらの大規模後方視的研究(Vinsonneau L, et al. Hum Reprod Open. 2022、14,421周期)ではHRT-FETで初期流産上昇と出生率低下が報告されています。HoらのRCT(Ho VNA, et al. Lancet. 2024)ではITT解析で初期流産に有意差は出ませんでしたが、自然周期・修正自然周期から約99例がHRTへ変更されており解釈に注意が必要で、PP解析ではHRTで初期流産が高い傾向が示されました。Yaraliらの最近の検討(Yarali H, et al. Reprod Biomed Online. 2025)では、修正自然周期で有意に初期流産リスクが低い(RR 0.49;95%CI 0.26~0.89)と報告されています。
個人的には腟剤単独、そして1日2回投与のHRT-FETのプロトコルが今回の結果に影響している可能性も否定できないかなと思っています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 排卵周期下胚移植

# ホルモン調整周期下胚移植

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

修正自然周期 vs ホルモン調整周期の正倍数性凍結融解胚移植成績(J Assist Reprod Genet. 2026)

2026.08.25

凍結融解胚盤胞の融解後再拡張不良がART成績に及ぼす影響(J Ovarian Res. 2023)

2026.07.29

HA+PRL添加培養液による単一凍結融解胚盤胞移植の出生率改善(Reprod Biomed Online. 2026)

2026.07.28

HRT-FETにおける腟用プロゲステロン製剤の用量と血中プロゲステロン値の影響(Reprod Med Biol. 2026)

2026.06.26

融解後延長培養が凍結融解胚盤胞移植の妊娠成績予測に有用か(J Assist Reprod Genet. 2018)

2026.06.23

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

2022.06.24

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?

2022.01.24

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

妊娠できるカップルはほぼ6ヶ月以内に妊娠する。(論文紹介)

2021.11.11