体外受精

2026.10.07

脂肪酸添加融解液で融解した初期胚移植の生殖予後(BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

はじめに

融解液に脂肪酸(FA)を添加すると脂質含量が回復し、発生能や着床・臨床妊娠・継続妊娠率が改善することが報告されています。しかし、脂肪酸添加融解液が移植後の出生率や周産期予後に及ぼす影響は不明でした。また体外受精による妊娠は、妊娠高血圧、低出生体重、SGA/LGA、子癇前症、胎盤異常など母体・周産期合併症のリスクが高いとされます。今回、単一凍結融解初期胚移植(SVCT)において脂肪酸添加融解液が出生率・妊娠合併症・新生児予後に及ぼす影響を後方視的に検討した報告をご紹介いたします。

ポイント

単一凍結融解初期胚移植において、脂肪酸添加融解液は母体・産科的予後に悪影響を及ぼすことなく出生率を改善し、安全かつ有効と考えられます。

引用文献

Kenji Ezoe, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2024 May 4;24(1):343. doi: 10.1186/s12884-024-06546-4.

論文内容

単一凍結融解初期胚移植(SVCT)後の出生率、妊娠合併症、新生児予後に対する脂肪酸添加融解液の影響を検討することを目的としました。自然周期下でSVCTを受けた患者の診療録を後方視的に解析しました。反復着床不全(4回以上の不成功、n=25)、卵子活性化処理を行った症例(n=3)、外科的精子採取例(n=1)を除外し、最終的に701周期701人を対象としました。2022年4月~6月はFA非添加の融解液(VT506、Kitazato社/対照群)、2022年7月~9月はFA添加融解液(VT526、Kitazato社/FA群)で胚融解しました。1人につき1周期のみを対象とし、出生率、妊娠合併症、周産期予後を両群間で比較しました。なお、両群間で母体年齢・父親年齢・BMI・不妊原因・媒精法・移植胚のグレード・移植日内膜厚などの背景因子に有意差はありませんでした。

結果

移植あたり出生率は、FA群で25.4%(91/361)、対照群で18.9%(64/340)と、FA群が有意に高値でした(P=0.040)。両群とも分娩あたり出生率は100%でした。多変量ロジスティック回帰分析でもFA群で出生の確率が高いことが確認されました(aOR 1.45;95%CI 1.00–2.09;P=0.048)。一方、流産率は25.0%(FA群)vs. 26.4%(対照群)と両群で同等でした(P=0.815)。 さらに母体年齢の中央値(37歳)で層別すると、37歳未満の若年群ではFA群で移植あたり出生率が有意に高く、多変量解析でも出生の確率が高いことが示されました。これに対し、37歳以上の群では両群間に有意差を認めませんでした。流産率は若年群・高年齢群いずれでも両群同等でした。
妊娠合併症発生率はFA群4.4%、対照群4.7%と同等でした(P=0.931)。妊娠高血圧(1.1% vs. 1.6%)、妊娠糖尿病(1.1% vs. 0%)、HELLP症候群(0% vs. 1.6%)、低置胎盤(0% vs. 1.6%)、前置胎盤(1.1% vs. 0%)、常位胎盤早期剥離(1.1% vs. 0%)はいずれも両群で差を認めませんでした。帝王切開率もFA群29.2%、対照群22.2%と同等でした(P=0.335)。
在胎週数(両群とも平均39.3週)、早産(37週未満)発生率(3.4% vs. 3.2%)、出生身長(49.4cm vs. 49.2cm)、出生体重(3,054g vs. 3,055g)、低出生体重児(2,500g未満:6.7% vs. 4.8%)、SGA(5.5% vs. 3.1%)、LGA(20.9% vs. 15.6%)、児の性別、先天異常発生率(0% vs. 3.1%)はいずれも両群で同等でした。多変量ロジスティック回帰分析でも、合併症・帝王切開・早産・低出生体重・SGA・LGAのいずれにおいてもFA添加融解液による有害な影響は認められませんでした。

私見

脂肪酸添加融解液による発生能改善が、継続妊娠率改善の報告(Amagai A, et al. Reprod Med Biol. 2023、Sawado A, et al. Sci Rep. 2024)を単一施設から系統だって証明し日常診療のルーチンに組み込むところまでいったことが本当に素晴らしい成果だとおもっています。
脂肪酸のβ酸化によるATP産生が初期胚発生に必須であることが基礎研究で示されており(Ohata K, et al. Reprod Biomed Online. 2021)、臨床的妥当性を支持します。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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