
はじめに
人工授精(IUI)を実施する際、排卵障害がある患者さま、もしくは原因不明不妊患者さまにクロミフェン(CC)やレトロゾールなどの排卵誘発剤と併用します。レトロゾールは、エストロゲン合成の最終段階を阻害するアロマターゼ阻害薬で、20年以上にわたり排卵誘発に使用されてきました。クロミフェン周期人工授精では18-28mmの範囲で最適な主席卵胞サイズが報告されていますが、レトロゾール周期人工授精における最適な卵胞サイズについては研究が限られています。
今回、単一卵胞発育に焦点を当てたレトロゾール周期人工授精の大規模後ろ向き研究をご紹介いたします。
ポイント
レトロゾール周期人工授精におけるhCGトリガーの最適な主席卵胞サイズは19-23mmで、臨床的妊娠率を改善します。
引用文献
Krista Cameron, et al. Fertil Steril. 2025 Aug;124(2):327-333. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.03.010.
論文内容
レトロゾール周期人工授精において、妊娠転帰に焦点を当てたhCGトリガーの最適な主席卵胞サイズを決定することを目的とした後ろ向きコホート研究です。2018年1月1日から2023年9月30日までに単一生殖医療施設で実施された724レトロゾール周期人工授精を対象としました。患者は周期3-7日目にレトロゾールによる排卵誘発を受け、経腟超音波で卵胞発育をモニタリングし、主席卵胞が希望サイズに達した時点でhCGを投与し、その後IUIを実施しました。
主要評価項目は臨床的妊娠率で、主席卵胞サイズは(≤18mm、19-23mm、≥24mm)に分類し、ROC曲線とYouden指数による閾値を用いて二分化しました。
結果
724周期中92周期で臨床的妊娠が成立しました。臨床的妊娠率は≤17mmの卵胞で8.45%、18mmで8.89%、19mmの12.92%から22mmの18.52%まで増加した後、≥24mmの卵胞では11.43%に低下しました。生化学的妊娠率も同様の傾向を示しました。ロジスティック回帰分析では、19-23mmの卵胞において≤18mmと比較して臨床的妊娠の有意に高いオッズ比(aOR 1.71;95%CI 1.01-3.03)が示されました。≥24mmの卵胞ではaOR 1.80(95%CI 0.98-3.31)で、統計学的有意性には達しませんでしたが効果の可能性が示唆されました。ROC曲線分析に基づく卵胞サイズの最適閾値は19mmでした。二分化分析では≥19mmの卵胞で臨床妊娠の高いオッズ比(aOR 1.74;95%CI 1.01-3.01)が確認されました。
私見
本研究は単一卵胞発育に限定することで、複数卵胞による交絡効果を排除し、主席卵胞サイズの影響をより明確に示した点が優れています。方向性としては小さすぎず、大きくなり過熟気味でも一定の妊娠率が担保されるというのがコンセンサスのようです。
先行研究では、下記のようになっています。
Palatnik et al. (クロミフェン療法もしくはレトロゾール療法で23-28mmが最適):
Fertil Steril. 2012;97(5):1089-94.e1-3.
Chen et al. (レトロゾール療法で16.1-18.0mmが最適、LHサージが出た場合はより小さくても大丈夫)
Reprod Biomed Online. 2023;46(3):566-76.
Hancock KL, et al. (クロミフェン療法で22.1mmが最適)
Fertil Steril. 2021;115(4):984-90.
Farhi et al. (PCOS女性291名クロミフェン療法で18-22mmが最適):
Gynecol Endocrinol. 2010;26(8):546-8.
文責:川井清考(WFC group CEO)
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