体外受精

2025.09.01

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

はじめに

日本の生殖補助医療(ART)は、2022年4月の保険適用開始により大きな転換点を迎えました。これにより治療へのアクセスが大幅に改善され、より多くのカップルが治療を受けられるようになっています。今回、日本産科婦人科学会(JSOG)から発表された2023年の統計データが報告されましたのでご紹介いたします。

ポイント

2023年日本のART治療は過去最高の56万周期を超え、約8万5,000人の児が出生しました。

引用文献

日本産科婦人科学会. 2023年ARTデータブック

https://www.jsog.or.jp/medical/641

年齢別詳細成績表(30歳〜44歳、2歳単位)

年齢群総治療周期数 移植周期数妊娠周期数妊娠率/総ET 流産数流産率/総妊娠生産周期数
30-31歳39,68123,03611,63750.5%2,12118.2%9,187
32-33歳52,52031,28415,30048.9%2,92319.1%11,946
34-35歳67,41140,01018,76546.9%4,02621.5%14,245
36-37歳73,77042,62318,54943.5%4,49024.2%13,499
38-39歳86,36346,95417,97438.3%5,27929.4%12,195
40-41歳87,08243,25013,61031.5%5,02836.9%8,202
42-43歳72,76532,0247,28422.7%3,34045.9%3,722
44歳17,9457,0061,07715.4%53749.9%507

治療規模と推移

2023年の日本におけるART治療は、総治療周期数561,664周期と過去最高を記録しました。 

出生児数についても85,048人と過去最高を記録し、このうち95.0%にあたる80,774人が凍結融解胚移植による出生児でした。これは日本の年間出生数約75万人の約11.3%に相当し、約9人に1人がARTによる出生という状況になっています。 

全体の治療成績は、移植実施周期が296,104(52.7%)、妊娠周期数が115,554(20.6%)、生産周期数が82,250(14.6%)でした。移植あたりの妊娠率は39.0%、流産率は26.0%、多胎は3.77%(4,353件)が報告されています。

年齢別治療成績の特徴

上記の詳細表から以下の重要な傾向が明らかになります: 

妊娠率(胚移植あたり)の変化: 30代前半(30-33歳)では約50%の妊娠率を維持していますが、34歳以降は段階的に低下し、40歳を境に大幅な低下が見られます。特に42歳以降では20%台まで低下し、44歳では15.4%となります。 

流産率の年齢依存性: 30代前半では約18-19%と比較的安定していますが、36歳以降から徐々に上昇し、40歳を超えると30%台に達します。42歳以降では45%を超え、44歳では約50%に達することが示されています。

治療方法の変化

卵巣刺激法では、FSH+GnRHアンタゴニストが21.5%と最も多く使用されています。注目すべきは、PP法が2022年の11.9%から2023年には16.3%へと4.4ポイント増加していることです。これは全胚凍結を前提とした新しい刺激法として普及が進んでいることを示しています。 

凍結融解胚移植の内膜調整管理では、HRT(ホルモン調整周期)が61.4%と最も多く用いられ、自然での排卵周期が31.5%、AI(アロマターゼ阻害剤)を用いた排卵周期が4.4%となっています。

私見

私たち生殖医療に携わる立場として、このような貴重なデータを社会に還元し、正しい理解を促進する責任があります。社会全体での妊娠・出産に対する理解促進に向けて、積極的に情報発信を続けていく必要があります。 

最後に、このデータブック作成に関わられた全ての先生方に、深い感謝の意を表します。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# エビデンス評価

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