体外受精

2025.04.10

PGT未実施胚移植の累積出生率(Hum Reprod. 2025)

はじめに

複数回の胚移植にもかかわらず妊娠に至らない「反復着床不全(RIF)」は、患者さんにとって精神的にも大きな負担となります。しかし、RIFの定義や、どの時点で治療方針を変更すべきかについては、明確なコンセンサスがありません。特に国内ではPGT未実施胚で40歳未満では6回、40-42歳では3回の保険診療胚移植回数が決まっていますのでより深刻な課題です。今回は、着床不全を繰り返した場合でも、その後の胚移植で妊娠・出産に至る可能性についてPGT未実施胚で詳細に調査した大規模研究をご紹介します。

ポイント

胚移植を繰り返すことで累積出生率は上昇し続け、10回目の胚盤胞移植で78.0%に達します。

引用文献

L Dhaenens, et al. Hum Reprod. 2025 Mar 10:deaf036. doi: 10.1093/humrep/deaf036.

論文内容

この報告はPGT未実施胚にて胚移植を繰り返した場合の累積出生率について検討することを目的としています。
2010年1月から2022年12月までにベルギー生殖医療施設で体外受精を実施した女性の非介入的後ろ向きコホート研究です。PGT、卵子提供、代理出産、または分割胚と胚盤胞の混合移植を含む治療を除外後、データセットは11,463名の女性(19,378回の採卵周期、31,478回の胚移植)を対象としました。研究方法として、逆確率重み付け(IPW)を用いたKaplan-Meier法により、出生に至るまでの胚移植数を分析しました。さらに、女性の年齢、以前に移植された胚の質、胚の段階(分割胚か胚盤胞か)で調整した後、2回目以降の移植での出生率に対する以前に移植された胚数の予測値を評価するために、ロジスティック回帰分析を実施しました。

結果

IPWアプローチを用いたKaplan-Meier推定では、累積出生率は3回目の胚盤胞移植後の51.1%、6回目では68.3%、10回目では78.0%まで増加しました。母体年齢が上がるにつれて、同じ累積出生率を達成するためにはより多くの胚盤胞が必要となります。また、8回の胚盤胞移植後でも、80%の累積出生率を達成する年齢カテゴリはありませんでした。
年齢別の4回目胚盤胞移植後の累積出生率は以下の通りでした:
・35歳未満:68.9%、35-37歳:57.6%、38-40歳:42.9%、41-42歳:16.3%、42歳超:13.5%
調整後のロジスティック回帰分析では、移植回数の増加による出生可能性の低下は統計的有意ではなく(OR=0.91)、女性年齢(OR=0.92)、胚盤胞移植(OR=1.34)、良好形態(OR=1.21)が着床に有意な因子とされました。同数の胚盤胞に達するための採卵回数は出生率に影響しませんでした。

私見

PirteaらやGillらが報告するように、反復着床不全の多くは胚側要因(特に染色体異常)であり、子宮因子は稀であるとされています。今回のPGT未実施胚移植のデータは日本国内と比較しても近い印象を受けます。内膜調整やアドオンについての記載がないのは残念ですが、全体としては説得力のある内容でした。

【Figure解説】
Figure 2: 分割胚と胚盤胞の累積出生率比較
・胚盤胞:3回目で60%、15回目で90%
・分割胚:6回目で60%、15回目で80%

Figure 3: 年齢別の累積出生率
・36歳以下 胚盤胞:5回目で80%
・36歳以下 分割胚:10回目で80%
・36歳超 胚盤胞:10回目で70%
・36歳超 分割胚:15回目で60%

Figure 4: IPWによる累積出生率
・楽観的:最高、保守的:最低、IPW:中間で現実的(10回目で85%)

Figure 5: 年齢カテゴリ別の累積出生率(IPW)
・35歳未満:4回で70%、15回で90%
・35-37歳:6回で70%
・38-40歳:8回で65%
・41-42歳:7回でも25%
・42歳超:4回で15%

Figure 6: 卵巣反応別の累積出生率(IPW)
・過剰反応:3回で70%、12回で90%
・正常反応:過剰と同様
・低反応:6回で70%
・不良反応:7回で60%

文責:川井清考(WFC group CEO)

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# 胚移植(ET)

# 反復着床不全(RIF)

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