一般不妊

2025.04.17

重症帝王切開子宮瘢痕発生率:二層式断続縫合 vs 二層式連続縫合(BMC Pregnancy Childbirth. 2025)

はじめに

帝王切開瘢痕欠損(CSD)は、不妊・周産期合併症・慢性的な生活の質低下など長期的な合併症を引き起こす可能性があります。しかし、CSD発生を防ぐための最適な閉鎖手技はまだ明確ではありません。今回、二層式断続縫合と二層式連続縫合がCSD形成の予防に効果的かどうかを調査した研究をご紹介します。

ポイント

二層式断続縫合は二層式連続縫合と比較して、重度のCSD発生を有意に減少させることができます。

引用文献

Shunichiro Tsuji, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2025 Mar 7;25(1):248. doi: 10.1186/s12884-025-07353-1.

論文内容

二層式断続縫合と二層式連続縫合がCSD形成予防に効果的かどうかを調査することを目的としました。
20歳以上で初回または既往帝王切開を受ける妊婦を対象とした国内で行われた日本単一大学病院で実施されたランダム化比較試験です。参加者は二層式断続縫合群(断続縫合群:第一層目:修正Gambee縫合法を用いた断続縫合)または二層式連続縫合群(連続縫合群)にランダムに割り当てられました(イメージはFig.2参照)。帝王切開後6~8ヶ月に残存筋層厚(RMT)とCSDの深さをソノヒステログラフィーで測定しました。さらに、筋層の50%以上が失われた状態として定義される重度CSDの発生率も調査しました。

結果

220名の研究参加者のうち43名が脱落し、断続縫合群89名と連続縫合群88名がソノヒステログラフィーを実施しました。断続縫合群と連続縫合群のRMTに有意差は認められませんでした(中央値はそれぞれ8.1 [四分位範囲、6.2~9.9] mmおよび7.9 [4.6~10.3] mm)。しかし、断続縫合群の重度CSD発生率は連続縫合群よりも低くなりました(2% vs. 22%、p<0.0001)。多変量ロジスティック回帰分析により、重度CSD発生に寄与する因子として、断続縫合(OR:0.04、95%CI:0.006~0.281、p=0.0011)、縫合前の子宮創部中央部における筋層厚の底部側と頸部側の差(OR:1.65、95%CI:1.144~2.367、p=0.0072)、帝王切開後6~8ヶ月時点での子宮後屈(OR:3.42、95%CI:1.074~10.946、p=0.0374)が明らかになりました。

私見

過去の報告では、一層縫合と二層縫合の比較、ロック縫合と非ロック縫合の比較、単層断続縫合と単層連続縫合の比較など様々あります。今回は新たな知見と考えられます。
縫合前の子宮創部中央部における筋層厚の底部側と頸部側の差が、重度CSD発生リスクとなることは子宮切開部の重要性を示唆した結果だと思います。
子宮後屈も重度CSD発生リスクと関連していましたが、こちらの知見も過去の報告と一致しており、意識するポイントかもしれません(D Ofili-Yebovi, et al. Ultrasound Obstet Gynecol. 2008 Jan;31(1):72-7. doi: 10.1002/uog.5200.)。
与えられた環境の中で医学的課題を一つずつクリアにしていく使命感、そして、社会的還元を惜しまない姿勢は、いつも良い刺激を与え続けてもらっています。

帝王切開子宮瘢痕症の疫学(Reprod Med Biol. 2023)
帝王切開(子宮切開)は一層縫合?二層縫合?長期予後(Am J Obstet Gynecol. 2024)
帝王切開でのBarbed Sutureはニッチを減らせる?(Am J Obstet Gynecol MFM. 2024)
帝王切開(子宮切開)は一層縫合?二層縫合?ニッチ形成(BJOG. 2021)

文責:川井清考(WFC group CEO)

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