治療予後・その他

2023.08.10

妊娠糖尿病既往ぽっちゃり女性は減量が再発予防に効果的(Am J Obstet Gynecol. 2023)

はじめに

妊娠糖尿病既往女性に対して、生活習慣改善のための介入をすることは、妊娠糖尿病再発抑制につながるかのエビデンスは不足しています。過体重/肥満で妊娠糖尿病の既往がある女性において、妊娠前の減量介入が妊娠糖尿病の再発に及ぼす影響を明らかにすることを目的としたランダム化比較試験をご紹介いたします。

ポイント

生活習慣への介入は妊娠前にかなりの体重減少をもたらしましたが、妊娠糖尿病発症率には影響しませんでした。介入の有無が、妊娠糖尿病再発には影響しませんでしたが、体重減少が妊娠糖尿病再発を低下させるのは間違いなさそうです。当研究は妊娠率が予想より低かったため、検出力不足であり、更なる研究が必要そうです。

引用文献

Suzanne Phelan, et al. Am J Obstet Gynecol. 2023 Aug;229(2):158.e1-158.e14. doi: 10.1016/j.ajog.2023.01.037.

論文内容

過体重/肥満(BMI>25)で妊娠糖尿病の既往がある女性(平均32歳台)において、妊娠前の減量介入が妊娠糖尿病の再発に及ぼす影響を明らかにすることを目的としました。
2017年12月~2022年2月に、妊娠前(プレコンセプション)の生活習慣介入と教育のみのコントロール群を比較する2施設RCTを実施しました。
過体重/肥満で妊娠糖尿病の既往がある英語圏およびスペイン語圏の成人199名を、妊娠前16週間の生活習慣介入+妊娠までの継続治療を行う群と教育のみのコントロール群に無作為に割り付けました。主要評価項目は妊娠糖尿病再発としました。

結果

試験に参加し妊娠に至った症例は63名(33%)でした(介入群:38/102 [37%] vs. コントロール群:25/91 [28.0%] ;P=. 17)。介入群ではコントロール群と比較して試験開始後16週時の体重減少が有意に大きく(4.8kg[3.4~6.0] vs. 0.7kg[-0.9~2.3];P=.001)、5%以上の体重減少した割合が大きくなりました(50.0%[17/34]vs. 13.6%[3/22];P=.005)。介入群(57.9%[23/38])とコントロール群(44.0%[11/25]、OR 1.8[0.59-5.8])で妊娠糖尿病再発率に差は認めませんでした。介入の有無によらず、妊娠前の体重減少が大きいほど、妊娠糖尿病再発のオッズは21%低くなりました(OR、0.79[0.66-0.94];P=.008)。妊娠前の5%以上の体重減少は、妊娠糖尿病再発のオッズを82%減少させました(OR、0.18[0.04-0.88];P=.03)。
コントロール群は試験開始時と16週目の面談・一般的指導のみとし、介入群は、16週間で10%の体重減少と妊娠までの体重減少維持を目的とした生活習慣改善プログラム(カロリー制限食、運動量を週150分以上)と1-2週間ごとの介入を行なっています。
参加者の70%以上が試験中に妊娠し、GDMは妊娠の60%で再発すると仮定しオッズ比0.43(介入群:38% vs. コントロール群:60%)を期待したRCT設計となっていました。

私見

予想以上に参加者の妊娠率が低かったので、妊娠前の減量プログラムへの介入が妊娠糖尿病再発減少につながる結果ではありませんでしたが、結果はとても興味深いものでした。

妊娠期間 介入群とコントロール群で差なし
拡張期血圧 介入群で改善
収縮期血圧 介入群とコントロール群で差なし
食事摂取量や身体活動変化 介入群とコントロール群で差なし

妊娠糖尿病の予測因子(群にかかわらず)

  • 妊娠前に1kg減少するごとに、妊娠糖尿病再発率は24%減少
  • 妊娠前に体重が5%以上減少すると、妊娠糖尿病再発率は82%減少
  • BMIカテゴリーが下がると(肥満→過体重、過体重→標準体重)、妊娠糖尿病再発率は97%減少
  • 試験開始後16週から妊娠直前の体重までの体重増加が大きいほど、妊娠糖尿病再発率は高くなる傾向(OR、1.2[0.9-1.5])

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 総説、RCT、メタアナリシス

# 妊娠糖尿病

# 体重、BMI

# プレコンセプション

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