はじめに
地球温暖化に伴う気温上昇は、重大な公衆衛生上の脅威となっています。妊婦と新生児は熱ストレスに最も脆弱な集団と考えられており、極端な気温が流産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、先天異常などの妊娠予後不良と関連することが報告されています。しかし、体外受精治療を受ける不妊女性に対する気温の影響については明らかではありません。今回、体外受精における臨床妊娠および出生と周囲気温曝露との関連を評価し、体外受精周期中の極端な気温に対する重要な感受性期間を特定することを目的とした後方視的コホート研究をご紹介します。
ポイント
極端な寒冷および高温の両方が体外受精周期の妊娠予後不良と有意に関連しました。特に卵胞発育期と妊娠期間中の気温曝露に注意が必要です。
引用文献
Lulu Geng, et al. Hum Reprod. 2023 Sep 27;dead192. doi: 10.1093/humrep/dead192.
論文内容
PCOSが凍結融解胚移植において、妊娠および出産の予後に悪影響を及ぼすかどうかを調査することを目的とした後方視的コホート研究です。2016年4月から2020年12月に上海第一母子保健病院で初回の新鮮胚移植または凍結胚移植を受けた3452人の不妊女性を対象としました。各患者の居住地に基づいて日平均気温曝露値を取得し、交絡因子を調整後、気温曝露と妊娠予後との関連を調査するために、気温層別化多変量ロジスティック回帰分析を実施しました。体外受精周期を8つの曝露期間に分けて解析しました:Period 1(採卵3ヶ月前からゴナドトロピン治療開始まで、約11週間)、Period 2(ゴナドトロピン治療開始から採卵まで)、Period 3(採卵前3ヶ月間)、Period 4(採卵から胚移植まで)、Period 5(胚移植から血清hCG検査まで)、Period 6(血清hCG検査から超音波検査まで)、Period 7(超音波検査から分娩まで)、Period 8(血清hCG検査から分娩まで)。
結果
臨床妊娠率は45.7%、出生率は37.1%でした。
臨床妊娠に関して:
寒冷気候下(平均気温12.1℃未満)において、採卵3ヶ月前からゴナドトロピン治療開始までの期間(Period 1、約11週間、卵胞発育期に相当)の気温が1℃上昇するごとに、臨床妊娠率が有意に上昇しました(aOR=1.102、95%CI:1.012-1.201)。
出生に関して:
寒冷気候下(平均気温12.9℃または13.4℃未満)において、妊娠期間中(Period 7:超音波検査から分娩まで、またはPeriod 8:血清hCG検査から分娩まで)の気温が1℃上昇するごとに、出生率が大幅に上昇しました。具体的には、Period 7ではaOR=6.299(95%CI:3.949-10.047)、Period 8ではaOR=10.486(95%CI:5.609-19.620)でした。
一方、高温気候下(平均気温20.0℃または20.4℃以上)において、妊娠期間中(Period 7およびPeriod 8)の気温が1℃上昇するごとに、出生率が大幅に低下しました。具体的には、Period 7ではaOR=0.186(95%CI:0.121-0.285)、Period 8ではaOR=0.302(95%CI:0.224-0.406)でした。
寒冷および高温気候下での出生率低下は、早期流産率の上昇を伴っていました(P<0.05)。また、寒冷気候下では快適な気候と比較して早産率が有意に高くなりました(P<0.05)。
層別解析により、寒冷気候下の卵胞発育期における気温上昇と臨床妊娠率上昇の正の関連は、特に以下のサブグループで認められました:35歳未満、正常BMI、学士号取得者または高卒以下、不妊期間2年未満、従来のIVF受精、女性因子不妊、新鮮胚移植を受けた女性。一方、妊娠期間中の寒冷または高温気候下における気温と出生率の関連は、すべてのサブグループで認められました。
私見
毎回思いますが、季節と体外受精成績の示す報告は差があるという報告すら時期が異なります。地域や外気温にどの程度影響を受ける環境(エアコンや個々の労働環境)であるかどうかなどで変わってくるのかもしれません。
体外受精成績は季節に影響をうける?(J Assist Reprod Genet.2020)
精液所見は季節や午前・午後で変わる?(Chronobiol Int. 2018)
気候による単一胚盤胞新鮮胚移植の臨床妊娠/出生率への影響(J Assist Reprod Genet. 2022)
妊娠しようと思う時期はいつなの?( Hum Reprod, 2020)
文責:川井清考(WFC group CEO)
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