論文の紹介
生殖医療専門施設で診断された精索静脈瘤の治療成績
(その2 精索静脈瘤術後の精液所見の改善と女性パートナーの治療の変遷について)
柴田裕貴、小宮顕、川井清考ほか
日本受精着床学会雑誌40(2): 192-199, 2023
この論文は、当クリニックのデータベースを用いて、千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学の柴田裕貴先生がまとめてくれたものです。日本受精着床学会雑誌に掲載されましたので、3回にわたってご紹介しています。
今回は2回目で、精液検査所見の改善効果と、女性パートナーの治療の変遷についてです。
症例は90例ですべてに顕微鏡下精索静脈瘤手術が行われました。手術は、亀田総合病院、千葉大学医学部附属病院および桐友クリニック新松戸にて実施されました。
i )精液所見について
手術前と術後3ヶ月で比較すると
精子濃度(平均) 24.4×10^6/mL–>39.9×10^6/mL(15.5×10^6/mLの上昇)
精子運動率(平均) 28.7%–>39.9%(11.2%の上昇)
総運動精子数(平均) 20.2×10^6–>53.5 x10^6(33.3 x10^6の上昇)
総精子数(平均) 58.6 x10^6–>102.1 x10^6(43.5 x10^6の上昇)
といずれも有意な上昇を認めました。
この有意差は症例数の関係もあり、静脈瘤のグレードが悪いほどよりはっきりしていました。術前の精液所見はグレードが悪いほど低下していたのですが、術後3ヶ月ではグレードによる差はあまりない状態になっていました。
ii )女性パートナーの治療について
女性側の治療は、術前はなしが7.8%、タイミング法が53.3%、人工授精が22.2%、体外受精(cIVFまたはICSI)が16.7%でした。精索静脈瘤術後は、治療なしが0%、タイミング法が12.2%、人工授精が8.9%、体外受精が78.9%と多くが高度な治療に進んでいました。これは、もともとの女性パートナーの年齢が平均36.7歳と高いこと、不妊期間の平均も5年以上と長いこと、当施設がIVFクリニックであることなどが背景にあると考えられます。
iii )まとめ
ここまでをまとめますと、精索静脈瘤術後3ヶ月で精液所見は有意に改善しました。一方で、女性パートナーの方の治療は多くが体外受精に移行していたという結果でした。
次回は、妊娠と生児獲得についての結果をご紹介します。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。