治療予後・その他

2024.07.12

卵子提供を受けた45歳以上女性の妊娠転機(Reprod Biomed Online 2024)

はじめに

卵子提供を受けていらっしゃる患者様は一定数いらっしゃいます。ただ、国内には情報が乏しいため、なかなか情報提供できるデータがないことが実情です。 
卵子提供を受けても高齢女性になると出生率が徐々に低下するという報告がSARTのデータベースでは報告されていますが、微々たる低下です。 

Williams, R.S., et al. Fertility and Sterility 117, 339–348. 
Yeh, J.S., et al. Fertility and Sterility 101, 1331-1336.e1. 

こちらは、妊娠する母体年齢が高いことによる子宮・全身状態の変化、またパートナー精子の高齢化による影響、などが原因と考えられています。 
日本では卵子提供は積極的に行われていないため、台湾で治療をうける国内カップルもたくさんいらっしゃいます。台湾の国内レジストリによると2016年度45歳以上で卵子提供を受けている体外受精周期割合は1.6%に達しています。台湾での卵子提供を受けた45歳以上女性の妊娠転機が報告されましたのでご報告いたします。 

ポイント

卵子提供を受けた45歳以上女性の半数は分娩に至っています。周産期合併症が高いことを含めて、しっかりした情報提供をおこなっていくことが重要です。 

引用文件

Ta-Sheng Chen, et al. Reprod Biomed Online 2024. doi: 10.1016/j.rbmo.2024.104291 

論文内容

卵子提供を受けた45歳以上女性の妊娠転機を調査した台湾でのレトロスペクティブ・コホート研究です。台湾レジストリデータを分析したもので、2007年から2016年に卵子提供を受けた45歳以上女性の体外受精周期を対象としました。帝王切開率、妊娠高血圧腎症、妊娠糖尿病、出生時体重などの周産期転帰とともに、累積生児出生率、臨床的妊娠率、流産率、生児出生率、双胎妊娠率などを評価しました。 

結果

745名1,718周期が実施されており、生児出生率は約40%と安定していました。累積生児出生率では、50歳以上女性(54.2%)では45~46歳女性(58.0%)と比較してわずかに低くなりましたが、統計学的に有意ではありませんでした(p=0.647)。帝王切開率、妊娠高血圧腎症、妊娠糖尿病、出生時体重、臨床的妊娠率、流産率、生児出生率、双胎妊娠率なども差は認めませんでした。回帰分析により、母体年齢の上昇に伴う生児出生率および出生体重の減少傾向がみられました。単一胚移植は、生児出生率に有意な影響を与えることなく、双胎妊娠のリスクを最小化することがわかりました。 

私見

45歳以上でも累積妊娠率が50%を超えること、ただし、高い頻度で周産期合併症が生じること、単一胚移植を強く推奨することを情報提供していくことが重要かと感じています。

45-46歳  47-49歳  50歳以上  
症例数  443  509  274  
平均移植個数  2.19  2.19  2.3  
累積出生率 症例数(%)  224 (58.0)  183 (55.3)  83 (54.2)  
臨床妊娠率 症例数(%)  247 (55.8)  285 (56.0)  146 (53.3)  
流産率 症例数(%)48(10.8)  69(13.6)  37(13.5) 
生児出生率 症例数(%)  196 (44.2)  208 (40.9)  105 (38.3)  
双胎率 症例数(%)27.60%  32.70%  24.80%  
帝王切開率 症例数(%)99 (94.3)  106 (93.0)  63 (92.6)  
妊娠高血圧症候群 症例数(%)  10 (9.5)  16 (14.0)  12 (17.6)  
妊娠糖尿病 症例数(%)  20 (19.0)  23 (20.2)  4 (5.9)  
単胎  68症例  75症例  51症例  
分娩週数 平均  37.4  37.03  36.63  
早産 症例数(%)  16 (23.5)  17 (22.7)  15 (29.4)  
出生体重 平均  3041(559)  2899(632)  2838(564)  
SGA児 症例数(%)  5 (7.4)  8 (10.7)  4 (7.8)  
双胎   37症例  39症例  17症例  
分娩週数 平均  35.11  34.36  34.59  
早産 症例数(%)26 (70.3)  33 (84.6)  13 (76.5)  
出生体重 平均  2288 (480)  2095 (418)  2086 (473)  
SGA児 症例数(%)15 (40.5)  13 (33.3)  7 (41.2)  

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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