体外受精

2020.07.28

5日目・6日目胚盤胞はホルモン調整周期の同じ時期に戻していいの?( Fertil Steril. 2020)

はじめに

ホルモン調整周期凍結融解胚盤胞移植のタイミングがプロゲステロン投与後6日目(P+5)と7日目(P+6)で出生率に差があるかどうかを後方視的に調査した論文です。2015年12月から2017年12月の間にホルモン調整周期サイクル(HRT)で凍結融解胚移植(FET)を受けた患者に対して、プロゲステロン投与後6日目(P+5)に移植した患者をP+5群、7日目(P+6)に移植した患者をP+6群とし、出生率を比較しました。HRTの方法は単一施設の報告ですので、ある程度は統一されています。

ポイント

6日目胚盤胞をP+6に移植すると流産率が低下し出生率が向上する傾向が見られました。5日目胚盤胞はP+5、P+6のいずれでも差がありませんでしたが、受精胚の発育速度と子宮内膜の着床能の同調を個別に検討する必要があるかもしれません。

引用文献

Roelens C, et al. Fertil Steril. 2020. PMID: 32553469

論文内容

P+5群346名、P+6群273名を比較すると、出生率は様々な交絡因子で補正した後でも36.6%とほぼ同等でした。しかし、サブグループ分析では、P+5に移植された6日目胚盤胞の流産率が、P+6に移植された6日目胚盤胞の流産率と比較して有意に高いことが明らかになりました(50.0%対21.4%)。さらにP+6に6日目胚盤胞を移植すると、高い出生率となる傾向がありました(P+5群21.5%、P+6群35.5%)。 
結論としてHRTサイクルにおける6日目胚盤胞にはP+6胚移植が出生率も高く流産率も低い傾向があるとしています。 
著者らはHRTプロトコルの利点としては、スケジュールの立てやすさと再現性の良さを記載しています。着床の窓の幅は人によってまちまちで、プロゲステロン投与開始から約48時間後に開始され、少なくとも4日間持続するとされていますが、至適な凍結融解胚移植の時期はHRTや胚の状態により固定のやり方ではなく柔軟に対応すべきではないか、としています。今後、大規模な前向き研究の必要性が他のグループからの報告が必要であるとしています。 

Day 5 胚盤胞 Day 6 胚盤胞 
P+5 (n = 252) P+6 (n = 211) P+5 (n = 94) P+6 (n = 62) 
生化学妊娠率 (hCG(+)/FET) 63.9% (161/252) 55.0% (116/211) .05 46.8% (44/94) 50.0% (31/62) .70 
生化学流産率 (GS未確認/hCG(+)) 8.7% (14/161) 11.2% (13/116) .49 4.5% (2/44) 9.7% (3/31) .35 
臨床妊娠率 (GS確認/FET) 58.3% (147/252) 48.8% (103/211) .38 44.7% (42/94) 45.2% (28/62) .95 
流産率  (流産/GS確認) 22.4% (33/147) 21.4% (22/103) .23 50.0% (21/42) 21.4% (6/28) .02 
生産率 (生産/FET) 42.5% (102/240) 36.9% (76/206) .23 21.5% (20/93) 35.5% (22/62) .05 

私見

患者様から「5日目胚盤胞も6日目胚盤胞も戻す時期は一緒でいいんですか?」と質問があった場合、「一般的には同じステージの胚盤胞は同じタイミングで戻します」と説明してきましたが、6日目胚盤胞移植の妊娠成績が5日目と比べて悪いのは胚の質であることは、間違いない事実ですが、胚移植時間(受精胚の発育スピードと内膜の着床能を同調させること)も柔軟に検討していくことが必要なのかもしれません。
この論文の筆者たちも記載していますが、もちろん、day5、6胚盤胞はもともと胚の質自体も異なりますし、この論文の症例では二個移植をする患者の割合もP+5群、P+6群で異なっています。他のグループからの追跡研究や大規模な前向き研究が必要であると思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 胚盤胞

# ホルモン調整周期下胚移植

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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