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2025.08.02

クラインフェルター症候群:精子採取は急いで行う? (Fertil Steril 2025)

研究の紹介

参考文献

モザイクでないクラインフェルター症候群(47,XXY)患者における精子採取術は、成人まで安全に延期可能:系統的レビューおよびメタアナリシス 

Surgical Sperm Retrieval in Patients with Non-Mosaic Klinefelter Syndrome (47, XXY) May be Safely Delayed Until Adulthood: A Systematic Review and Meta-Analysis. 

Momtazi-Mar L, ほか. Fertil Steril. 2025 Jul 19:S0015-0282(25)00594-1. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.07.021. Epub ahead of print. PMID: 40691963.

はじめに

クラインフェルター症候群(KS)は、精細胞のアポトーシス、精細管の硝子化、精巣間質の過形成などによって無精子症を引き起こす、最も一般的な遺伝性疾患です。思春期直後に精子採取術を行うべきか、それとも成人まで安全に延期できるかについては、いまだ議論があります。2023年6月17日のブログでも同様の研究を紹介しました。以前のものは119名のconventional TESEでの前向きの解析でした。2017年にも37の研究(1248 症例)を用いた同様なメタアナリシスがありましたが(Corona G, ほかHum Reprod Update. 2017)、今回はより大規模なものでmicro-TESE実施例を含んだ系統的レビューとメタアナリシスになります。

研究のポイント

モザイクでないクラインフェルター症候群の方では、思春期に急いで精子を採取しなくても、成人後でも精子が見つかる可能性や、父親になれる可能性は十分にあると考えられます。

研究の要旨

目的

モザイクでないKS(47,XXY)患者において、年齢と精子採取術の成功率との関連を評価し、特に思春期と成人期の結果の違いに注目しました。

研究の方法

PubMed、Embase、Medline2025年1月15日までのデータを検索しました。 

モザイクでないKS(47,XXY)患者に対して、conventionalまたは顕微鏡下(mTESE)の精巣内精子採取術(TESE)の結果を報告している研究を対象としました。年齢、参加者数、精子採取率(SRR)、出生率(LBR)、精巣体積(TTV)、処置前のテストステロン値、血中FSHおよびLH値のデータを抽出しました。系統的解析とメタアナリシスが行われました。 

主要評価項目はTESEによる精子採取率(SRR)です。

結果

合計2815人の参加者を含む48件の研究が対象となり、SRRの中央値は44%でした。感度分析により、バイアスのリスクは低いと判断されました。9件の研究またはそのサブグループは、平均年齢が20歳未満の思春期の参加者を対象としていました。48件の研究のうち24件では、精子採取が成功した群(SR+)と失敗した群(SR−)の比較が報告されていました。メタアナリシスの結果、SR+群はSR−群より平均2.8歳若いと推定されました(95%CI: -3.62 ~ -2.02歳、I²=78%、p<0.001)。全体として、思春期群と成人群のSRRに有意差はありませんでした(45% vs. 42%、p=0.53)。また、年齢とSRRの間には統計的に有意ではないものの(p=0.06)、40歳以降に精子採取率が低下する可能性が示唆されました。出生率(LBR)については22件の研究が報告しており、中央値は11.1%でした。

結論

モザイクでないKS患者において、思春期と成人期の間で精子採取の成功率に大きな差はありませんが、40歳以降はやや低下する可能性があります。精子採取や生殖補助医療による段階的な減少により出生率は低めにとどまるものの、必要であれば精子採取を40歳程度まで延期しても、生物学的な父親になる可能性には大きな影響がないことが示唆されます。

筆者の意見

要旨には含まれていませんが、重要な所見を補足します。 

精子採取に成功した(SR+)患者では、総テストステロン値の平均が有意に高く、その差は+60 ng/dLでした(95%信頼区間:34〜85 ng/dL、I²=75%、p<0.001)。 

この研究は大規模で信頼性がありますが、症例は30〜35歳に偏っており、思春期直後のデータは少なくなっています。これは、現実的に思春期直後にTESEを受ける症例がまだ限られているためだと思われます。 

年齢と精子採取率の関係を示したグラフも提示されており(ここではご紹介できませんが)、若いからといって必ずしも精子が採れる確率が高いわけではないように見受けられます。なお、40歳を超えた症例を含む研究は2件のみで、いずれも精子採取率は20%未満でした。これらのことから、TESEは30歳代までに行うのが望ましい可能性が示唆されます。 

解析では、精子採取に成功した群(SR+)は、年齢が有意に若く、テストステロン値も有意に高かったことから、必ずしも思春期に急ぐ必要はないものの、テストステロンが低下しないうちに早めにTESEを検討する価値があると考えられます。 

TESEの手技に関しては、conventional TESEとmicro-TESEの実施例はおおよそ半々でしたが、精子採取率に有意な差は認められませんでした(p=0.51)。 

日本人を対象とした研究も5件含まれており、 

  • conventional TESEが2研究:採取率は50%および35%
  • micro-TESEが3研究:採取率は50%、44%、34%

という結果でした。これらのデータから、日本人においてもTESEの手法による明確な差はない可能性があると考えられます。ただし、実臨床では現在micro-TESEがより一般的に行われている点は考慮すべきでしょう。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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