
はじめに
子宮内膜症は、近年ホルモン療法を疼痛管理や疾患増悪予防を兼ねて使用することが増えてきています。しかし、妊活中にはやめなくてはいけません。生殖補助医療では卵巣刺激により自然周期の10倍のエストロゲン濃度となるため、内膜症増悪リスクが懸念されます。子宮内膜症女性における妊娠治療選択時の疾患進行リスクについて検討した総説をご紹介いたします。
ポイント
子宮内膜症女性では妊活中に年間約10%の再発リスクがあり、深部浸潤性病変では13%で重篤な悪化、妊娠時の特発性腹腔内出血(SHiP)リスクも1%未満存在するため、個別化された治療選択が重要である。
引用文献
Edgardo Somigliana, et al. Hum Reprod. 2025 Jul 1;40(7):1249-1256. doi: 10.1093/humrep/deaf090.
論文内容
子宮内膜症の再発・進行リスクについて、ホルモン療法を行っていないと年間再発率は約10%と報告されています。内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)では術後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月での再発率がそれぞれ4%、14%、17%、27%でした。深部浸潤性病変の未治療時進行率は21%(95%CI: 7-41%)で、ホルモン治療使用時の12%(95%CI: 9-16%)と比較して高率でした。生殖補助医療時リスクでは、77名の腸管深部子宮内膜症女性のうち10名(13%、95%CI: 7-22%)で重篤な症状悪化が観察され、2名が大腸閉塞、6名が亜閉塞、2名が疼痛悪化を来し、全員が外科的介入を要しました。一方、別の研究では60名中1名(2%、95%CI: 0.1-8%)のみが一過性尿管狭窄を発症しました。内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)では120病変中28病変(23%、95%CI: 16-32%)で増大が観察されました。妊娠関連合併症では、子宮内膜症女性で前置胎盤リスクが5-10倍増加し、特発性腹腔内出血(SHiP)は稀(1%未満)ながらART妊娠と深部浸潤性病変でリスクが高まります。
私見
妊活中に内膜症が増悪するとして、特にART患者ではどのような対策を推奨しているかというと、下記を推奨しています。
選択的単一胚移植:周産期リスクの軽減
胚盤胞段階での移植移植:回数を軽減
新鮮胚移植の回避:卵巣刺激後高ホルモン環境での妊娠を回避
ホルモン補充療法:排卵を避けるため?
PGT-Aの検討 – 移植回数削減と妊活期間短縮のため
診療をしていて、内膜症増悪・悪性腫瘍化で妊活を中断せざるを得なかった患者さまを数多くみているため、医療者にも患者様にも知っておいてほしい内容かなと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。