体外受精

2025.08.25

反復着床不全:胚と子宮内膜の相互作用(RBMO. 2025)

はじめに

反復着床不全(RIF)は体外受精における困難な臨床課題の一つです。その定義についての議論が続いており、最適な管理をサポートするエビデンスベースは弱いのが現状です。近年、連続した良好胚盤胞移植による優れた累積成績を示す研究により、RIFは結局受精胚側、偶発的な着床失敗にすぎず、子宮内膜因子がRIFの重要な因子ではないという考えも出てきています。一方で、機能的な子宮内膜の障害が着床に影響を与えることを示す研究も豊富に存在します。

ポイント

胚と子宮内膜の他方を部分的に補償するという可能性があります。つまり、両方を良い状態に保つことがRIF解決につながる可能性があります。

引用文献

Nick Macklon. Reprod Biomed Online. 2025 Apr;50(4):104827.  doi: 10.1016/j.rbmo.2025.104827.

論文内容

反復着床不全(RIF)は困難な臨床課題であり続けています。その定義についての議論が続いており、最適な管理をサポートするエビデンスベースは弱い状況です。 

子宮内膜のバイオセンサー機能に関する新たな理解は、胚と同様に、その機能的が単に受容性または非受容性であるのではなく、スペクトラム上に存在することを示しています。胚と子宮内膜の質の組み合わせが成功を決定し、一方が他方を部分的に補償できるという主張がなされています。 

子宮内膜は着床における受動的なパートナーではなく、胚の質を評価し選択する能力を持つ活動的なバイオセンサーとして機能しています。子宮内膜のバイオセンサー機能とは胚の質を「判定する審査員」のような能動的な機能を持ち、子宮内膜は単に胚を受け入れるだけでなく、「この胚は妊娠継続に値するか」を判断し、質の悪い胚の着床を防ぐ「品質管理システム」として機能している可能性があります。 

高品質の正倍数性胚の存在下では、子宮内膜因子はそれほど重要ではありませんが、胚の質が最適でない場合、妊娠を成立させるためにはより寛容な子宮内膜が必要となります。

私見

RIFの概念を示す論文根拠

正倍数性胚移植による優れた成績(胚要因重視の根拠):

  • Pirtea P, et al. 正倍数性胚の3回連続移植で95%の累積妊娠率を達成.  
    Fertil Steril. 2021;115:45-53.
  • Gill P, et al. 正倍数性胚の5回連続移植の成績検討(123,987例の解析).  
    Hum Reprod. 2024;39:974-980.
  • Ata B, et al. 正倍数性胚移植では子宮内膜厚は成績に影響しない(959例の解析). Fertil Steril. 2023;120:91-98.

子宮内膜要因の重要性を示す根拠:

  • Boomsma CM, et al. 胚移植前の子宮内膜分泌物解析により着床予測が可能.  
    Hum Reprod. 2009;24:1427-1435.
  • Koot YE, et al. RIF既往女性の子宮内膜転写プロファイルの同定と検証.  
    Sci Rep. 2016;6:19411.
  • Weimar CH, et al. 習慣流産女性の子宮内膜は胚の質を識別できない.  
    PLoS One. 2012;7:e41424.

子宮内膜バイオセンサー機能の根拠:

  • Weimar CH, et al. 間質細胞の胚に向かう移動と胚質との関連性の実証.  
    PLoS One. 2012;7:e41424.
  • Teklenburg G, et al. 質の悪い胚存在下での脱落膜化サイトカイン産生の著明な低下. PLoS One. 2010;5:e10258.

臨床的には、RIFの治療において単一の介入ではなく、胚と子宮内膜の両面からの個別化アプローチの重要性を示唆しています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 反復着床不全(RIF)

# エビデンス評価

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