
はじめに
男性側の生殖機能の評価には従来の精液検査に加え、精子DNA断片化率(DFI)や精液の酸化還元電位測定(sORP)も導入されつつあります。挙児希望男性における精液検査やDFI、sORP検査の異常頻度は明確にした当院からの報告です。
ポイント
精液検査所見は受診例の多くで異常であり、DFIやsORPだけが異常の症例も一定数認め、従来の精液検査のみでは男性不妊を見逃す可能性があります。
引用文献
Takayanagi Y, et al. 日本受精着床学会雑誌. 2024;41(2):249-261.
「挙児希望男性パートナーの初回精液検査・精子DNA 断片化率・精液の酸化還元電位の異常例の頻度」
論文内容
挙児希望にて受診した男性2,501名を対象として、初回精液検査結果や初回精液検体におけるDFIやsORPの測定結果の異常例の頻度を調査しました。精液検査はSMAS(ディテクト)を用い、DFIは精子クロマチン分散化試験、sORPはMiOXSYS(Caerus Biotechnologies)にて測定しました。
結果
各測定結果の中央値は、精液量2.6mL、精子運動率33.9%、精子前進運動率26.2%、精子濃度47.1×10⁶/mL、総運動精子数34.5×10⁶、総精子数118.2×10⁶、DFI 19.2%、sORP 0.48 mV/精子濃度でした。精液検査の異常例(WHOの下限基準値未満)は71.9%、DFI高値(>30%)は24.3%、sORP高値(>1.38 mV/精子濃度)は19.8%、これらのいずれかの異常例は83.3%でした。注目すべきは、精液検査正常でもDFI異常が17.2%、sORP異常が7.2%認められたことです。また、DFIとsORPの両方を測定した1,254例のうち、DFIとsORPのいずれかが異常値を示した症例の割合は38.0%でした。WHO2021に参加男性と比較して、本研究の対象者の精子濃度、総精子数、総運動精子数は有意に低値でした。
私見
DFIに関しては、精子DNA断片化が高い場合、治療成績が落ちるとされており、治療成績の予測という点からも重要な指標とされています。国際的な研究では、DFI<30%では≧30%に比べて、IUIでの妊娠・生児獲得が7.1倍とされ、conventional IVFまたはICSIを行う場合でも、DFI<30%ではDFI≧30%に比べて妊娠/生児獲得が1.8倍であることが報告されています。
sORPについても、酸化ストレスと不妊の男性因子との関連性が指摘されており、男性不妊の25-87%に関与しているとされています。
第43回日本受精着床学会総会・学術講演会にて第12回優秀論文賞を受賞できました。筆頭著者の髙柳先生、指導教官の小宮先生おめでとうございます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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